Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

もてない男の独立宣言-書評「電波男」

書評なんだけど、これは「結婚」カテゴリにいれるべきだろうな、やっぱり。

この本は、オタクの独立宣言であろう。
ここまで言い切った、その姿勢にまず拍手したい。

この本は、30代半ばの(年齢=彼女いない歴の)著者が、かの「電車男」に対して「今さらなんだぁ、ふざけんなぁ~!」の怒りを爆発させた、おそるべきルサンチマンの書である。

この本の中で、著者は「恋愛資本主義」を批判する。恋愛を人生の中心におく価値観をすりこまれ、もてたいばかりにカネを稼ぎ、かっこいいクルマや服、はやりのスポットにカネを落とす価値観を徹底的に否定する。だいたい、現実の恋愛は「イケメンとカネとちんちん」の競争だけじゃないか、もともと不細工に生まれついたら、いきなりハードな状況になるだけで、そんなゲームに参加したくない!だいたい、ゲームに勝つことで愛があるのか?
「そんなの、真実の愛じゃない!」
では、真実の愛はどこにあるのか?

「現実にはない。だから、2次元だ、むしろ2次元のほうが素晴らしい、みんな妄想しろ!恋愛資本主義にだまされるな」と筆者は主張するのである。

恋愛資本主義を批判したのは、小谷野敦もてない男」など、過去にもある。
しかし、この本が新しいのは、その処方箋として「妄想」を徹底的に主張した点だ。
むしろ、もてなかったルサンチマンを「妄想」によって立派にはらすことができる、とする。例として、宮沢賢治と津山30人殺しの犯人である都井をあげて説明している。多少賢いと言われて育った子供が、女性に相手にされないとどうなるか?それを妄想に昇華したのが宮沢賢治であり、妄想をもてないまま、現実の女性に対する怨念を爆発させてしまったのが都井だと。
だから、もてない男達よ、大いに妄想せよ!そこには、真実の愛があるんだ!

負け犬女が、世の中の恋愛資本主義を男に仕込む「電車男」は、とんでもない洗脳映画だと筆者は批判する。真実の愛を求めて現実に妥協しなくてオタクになったのに、なんで現実の恋愛でレベルを下げた女に相手にされなきゃならないんだよ?オタクは、負け犬女の下の存在じゃない!
むしろ、負け犬女に正しいオタクの道を説け!と言うのである。

本書の主張は、一見斬新であるが、しかし、その論理は見事に透徹している。
筆者のスタンスは、つねに明快で力強い。というか、なんでこの筆者がもてないのか、不思議でたまらない。もっとも、現実の女性に筆者はもう興味がないのだろうが。

文句なく☆☆☆である。

本書は、恋愛資本主義への決別の書であると同時に「キモブサオタ」と呼ばれてきた人たちに対する声援であり、もてない男の独立宣言である。
もてる=競争に勝つこと。それ、ホントに価値があることか?

私は思う。モテルのは楽しいだろうなぁ。でも、自分が今さらモテることはないだろう。
だったら、いっそ。。。そう思わせる魅力がある。

実は、恋愛資本主義は、現在の日本を支える根本原理だ。反恋愛資本主義は、それ自体で「フツーの人生」から逸脱することになる。それは本当は怖いことだ。危険な香りに満ちた名著だと思う。