Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

家康と権之丞

「家康と権之丞」保坂雅史。

小笠原権之丞は、歴史から抹殺された人物である。徳川幕府にとっては、非常に都合が悪い人物だからだ。

小笠原権之丞の実父は徳川家康、母は秀吉の妹、朝日姫の侍女だった。朝日姫は豊臣と徳川の政略によって結婚させられたのであるが、当時すでに40歳を超えた姥桜だった。何しろ、人間50年の時代である。
で、家康は、この朝日姫の侍女が美人だったので、こっちに手を出してしまった。まあ、気持ちはわからんではないが(苦笑)。

さて、いかに家康でも、正妻の侍女に手をつけて子どもを産ませたのでは外聞が悪いので、大きなお腹のまま、なんと家臣に押しつけてしまった。それで、小笠原権之丞として出生したのである。
ちなみに、小笠原氏はもともと北信の名家で、今でも華道や弓道に名を残す。あの小笠原諸島を見つけたのが、この小笠原権之丞の叔父である。

権之丞は、長じて自分の出生の秘密を知り、実父に対して強い反発心を持つ。キリスト教の禁教令が出たとき、彼は自分の信仰を捨てないで、家禄を無くしてしまう。敬虔なキリスト教徒だったわけでなく、ただ実父への反発故である。
そのまま舟を仕立て、「無主の理想国」をつくるべく、小笠原諸島(当時、無人島)へ船出。しかし、帰路に嵐になって難破し、大事な舟を失ってしまう。
ついに彼は大阪城にこもり、実父と戦うことを決意する。
彼は、多くのキリスト教徒がこもる大阪城において、家禄を捨てて教えを守ったというので「聖人」と呼ばれる。しかし、実はそうではなく、大して神を信じていないのだ。彼はとまどいつつ、ついに大阪夏の陣を迎える。。。

なかなか、面白い小説だ。家康の妻妾は15人もいたので、なかには隠し子もいたらしい。有名なところでは、土井利勝がそうではないか、と言われている。この小笠原権之丞も、そういう人である。

だいたい、歴史小説というものは、事実をいかに肉付けして膨らませるか、というところが腕の見せどころなのだが、なかなかうまくいっている。細かいエピソードが「なるほど、こうであったろう」と思わせる。

評価は☆。
この手の「埋もれた人物発掘」ものとしては、まずまず、良い出来ではないかな。ただ、彼の出生に関する実父との相克が、ちょっと分かりづらい。どっちかというと「時の権力者に対する反発」だけで描かれているように思われる。反骨の人であったことは間違いないのであるが、彼自身の背景を考えると、もう一段の説得力を増す工夫が欲しかったかな。
惜しまれる点である。

ちなみに。金地院崇伝が起草した禁教令には、日本は神国であるので切支丹の神は忌むのだ、とハッキリ書かれている。「神国思想」は明治維新で突然飛び出たものではないのだが、戦後の歴史認識(笑)では「明治維新でいきなり神国になったことにしておかなければいけなかった」のだなぁ。うふふふ。