Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

水戦争

「水戦争」柴田明夫。

先日読んだ「冷蔵庫で食品を腐らす日本人」の後半部分の元になったと思われる本である。
石油や鉱物資源を巡って、世界は巨大資本や国家資本が覇を争っているのが現状だが、その次は「水」になるだろう、という指摘である。戦慄するような話だが、結論からいえば、本書の予言が的中する確率は100%近いのではないかと思う。

水というと、すぐに「飲料水」を思い浮かべる。しかし、「水不足」とは、飲料水の問題ではない。飲料水は、水の中では、ごくわずかな問題でしかない。

まず「生活用水」がある。風呂やトイレ、シャワー、炊事。洗車から庭の手入れ。すべて水を使う。トイレを水洗にするだけで、先進国の人間は、途上国の人間の20倍の水を使うのだという。
さらに、工業用水。これは大量に使いそうなイメージがある。ところが、意外とそうでもない。なぜかというと、実は「水の再利用」がもっとも行われているのが工業用水だからである。なにしろ、水は製品コストに跳ね返るので、工場は節水やリサイクルに必死になるわけだ。逆にいえば、工業用水の節約は、これ以上は進みにくい。
さらに、最大の問題が農業用水である。農業は、もっとも大量の水を使う。水の利用効率が悪いのだ。これが、農業のウイークポイントである。1トンの穀物をつくるのに、1000トンの水を必要とする。食料輸入は「バーチャルウォーター」仮想水の輸入に他ならないわけだ。
考えてみれば、原油が1ガロン4ドルになるといって大騒ぎ。1ガロンは3.8リットル、今は1ドル95円として換算して、ちょうど1リットル100円である。水のほうが高い?ということである。
もしも「水」戦争になったら、石油どころの騒ぎでは済まないだろう。

そこで、食料問題であるが、よくテレビでは「ヘッジファンドの資金のために、食料価格が高騰」などとやっていますな。まあ、そういう面もあるのだが、それも一面的な話なのである。
というのは、世界の食料で、主なプレーヤーは決まってしまっているからだ。
輸入国は、日本と中国を筆頭にアジア諸国だけ。
輸出国は、北米(米、カナダ)南米(チリ、アルゼンチン)、オーストラリア、中国がちょっと。
中国が輸出輸入の両方に顔を出すが、中国の食糧自給率自体はほぼ100%なので、輸出と輸入がイコールである。

つまり、ヘッジファンドは、早い話が米大陸とアジアのカネを動かして利益を上げているだけにすぎない。全世界の問題じゃないのだ。先進国同士のマネーゲームなら、我々が文句を言える道理だろうか?ホントにテレビってやつは(ぶつぶつ)。

本書には掲載されていないが、世界2位の農業国であるフランスや、その下のドイツが現れないのは、EU内で完結した取引は国際統計から除かれるためだと思われる。
EUは日本に食料を売らない。よく言われる話である。

で、筆頭はアメリカだが、そのアメリカの主な輸出品は小麦、とうもろこし、大豆、じゃがいも。カロリー自給に直結する。これを支えているのが、米中西部のオガララ帯水層である。化石水という、太古の時代に地下に封じ込められた水をスプリンクラーでまいて、「砂と岩の西部」が開拓された。
ところが、このオガララ帯水層の水位が減る一方である。おまけに、長年の灌漑農業は、塩害を引き起こす。最大の食料輸出国である米国の農園に、変調が起こり始めているのだ。
さらに、温暖化の影響で、オーストラリアとロシアの不作がひどい。これが表面化するとどうなるだろうか?という問いである。

評価は☆☆。我々の未来を考える上で、必読の一冊じゃないかと思う。

著者は、巻末で、我が国の水利用についても触れている。
実は、日本は、降水量でみると、それほど恵まれた状況ではない。おまけに国土が狭くて、川が急峻であるから、すぐに水が海に流れ込んでしまう。
河川の氾濫も多い。それで、あちこちにダムをつくり、堤防をつくる。
ところが、江戸時代の治水をみると、堤防は「乗り上げ堤防」(洪水のときには水位が堤防を越える)や「かすみ堤防」(わざと決壊用の隙間がある堤防)、防水林(洪水のときに、流れてきた流木や家屋が引っかかって堤防となる)などのような「水をなだめる」治水である。
もしも、コンクリート堤防のような「水を封じ込める」治水をすると、河川が氾濫したときに、そのまま下流域は大被害になる。だから、数百年に1回の決壊に備える堤防が必要となり、巨額の建設予算を必要とするのである。これは、そもそも思想に問題があるのではないか?
日本を欧州諸国と対GDP費で公費使途をみると、建設関連が3倍で、そのかわりに福祉が1/3しかない。道路や箱、港湾や堤防、ダムばかりつくって、福祉をしない国なのである。そもそも、カネを使う国作りをしてしまっているのだ。
山への植林なども考え併せて、国民みんなが豊かに暮らせる国土作りを考えなくてはいけない。それは、高速道路を作ることでは決してないのである。
みんなが春先になると花粉症になる。杉ばかりが植えられて、落葉も結実もなく、動物も住めない、荒れ果てた山林はやがて地滑りを起こす。
だから砂防ダムが必要になる。しかし、落葉土が消失すると、今度は海の栄養がなくなり、魚もいなくなる。魚がいなくなるから、石油を使って養殖をしなければならない。
そうやって、見かけの経済統計だけがつり上がる。お金がなくては生きていけない国土になり、農家は農を捨てて、ダムや道路工事で働くのだ。
そんな国になっているのが、日本である。
そもそも雨が少なくても、どうして日本人は水をタダだと思うほど使えるのだろうか?
それは、太陽と水の割合がちょうど良くて、放っておいても草ぼうぼうになるくらい恵まれているからだ。他の国では、砂漠になってしまうというのに。
なのに、我々は、「緑のダム」である山林を放棄し、子孫の代には使えなくなるダムばかりをつくる。

この国はどうなっているんだろう。