Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

宇宙の未解明問題

「宇宙の未解明問題」リチャード・ハモンド

久しぶりにブルーバックス
宇宙論の本というのは、ヘタなSFよりもぶっとんでいて、センスオブワンダー満載だと思うのは私だけか(苦笑)。

本書は、そもそも宇宙は定常状態なのか、膨張した後に再び縮小するのか(ミラバンですな)あるいは膨張しっぱなしなのか、という問題から説き起こす。
かつてアインシュタインは、相対論で宇宙を記述したときに、定常宇宙を想定して「宇宙項」を導入した。
宇宙には万有引力があるから、放っておけば、いずれはお互いが引き付けあって縮小してしまうのではないか、という話が当時あった。
アインシュタインは、これに対して「万有斥力」のようなものを想定して宇宙項を導入したのである。その後、アインシュタインはこれを「生涯最大の過ち」とした。
定常宇宙論は否定されたのである。
その後、宇宙は様々な観測結果から膨張していることがわかった。その説明として、宇宙の誕生に「ビッグバン」があったことが有力になっている。
しかし、その後の宇宙の膨張を説明するには、これでは不足だ。結局、宇宙を膨張させている謎の「ダークエネルギー」問題が残ることになった。
アインシュタインが失敗だと嘆いた宇宙項は、まんざら失敗ではなかったのではないか、という話になっているんである。

あとはお決まりの「一般相対性理論」と「量子力学」を統合する大統一理論の話とか、その究極である超ひも理論M理論の紹介などがある。
そもそも、宇宙における物理法則は一定でなければならないわけだが、ミクロの世界を記述する量子力学とマクロの世界を記述する相対性理論は相性が悪い。
ことに、重力においてである。電気力と弱い力は統合され、さらに強い力までされているのだが、重力だけは非常に始末がわるい。
重力波の観測も行われているが、まだ成功していない。

CP対称性の破れの問題も深刻である。
我々の世界は物質(バリオン)で出来ている。しかし、宇宙の起源をさかのぼると、物質と反物質は等量存在したはずなのである。
(ちなみに、物質と反物質が出会うと、SFでおなじみのようにエネルギーとなって消える。反物質爆発である)
じゃあどうして、宇宙には物質が多く、反物質が少ないのか?という疑問が出る。
その回答が「CP対称性の破れ」である。
これについては、小林-益川理論が予言しており、ノーベル賞を受賞した。
まあ、このあたりになると、もはや素人にとっては神学レベルの話ですな。

評価は☆。
語り口は軽妙で、思わず「ふむふむ」と読ませてしまう。
しかし、その実、非常に難しい話の連続なので、同じブルーバックスの「場の量子論」とか「クオークとは何か」とかを一通り読んでいないと、全然ついていけない。
私は一読し、直後に再読したが、まだ全体を把握したとはいえないな。

ただ思うのは、我々はついつい目の前の事象しか分からず、それしか信じないということである。
真理は、そこにあるとばかりは限らない。オッカムの剃刀は有効だが、しかし、それは単純に理解しやすい話だけが真実であると限らないのである。
難解であっても、理論がスマートであることは、重要なことなんだと思う。

いつも思うのだが、同じ経済学でも、マクロとミクロは全然別なのである。そういう話を、相対論と量子論の統一に四苦八苦している物理学者に聞かせたら、なんというであろうか。
「経済学というのは、ずいぶんのんきな学問ですね」というような気がして仕方がないんだが。

私は、人間の理性というものを基本的に信じていないのだが、しかし、こういう本を読むと偉大だと痛感させられる。
残念なのは、自分の理性が、全然本書の内容についていけてないことであるよなあ(泣)