Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

凡人起業

「凡人起業」多田正幸。副題は「カリスマ経営者は見習うな」。

新卒から入社した会社は、某経営コンサルティング会社であった。
コンサルティングといいながら、実際には企業向け研修やら教材やらを販売していたのだが、そこで多くの中小企業経営者と会う機会があった。
そのとき、若かりし私は思ったのである。
「なんだ、社長といいつつ、実際には社員すら勤まらない人ばかりじゃないか」
時おりしもバブル。で、友人の起業に付き合ってその職場を退職、「一旗あげる」つもりだった私は、見事に一敗地にまみれたわけである。
その後、敗戦処理の2年を経過して、やがて株式上場するベンチャー企業に就職し、役員となった。
とはいえ、それは他人の旗に「この指とまれ」しただけである。私にとって、起業は、いまだに課題である。
ベンチャー企業の成長戦略に、私が貢献しなかったわけではないが、しかし、起業した経営者と部下では雲泥の違いがあるものだ。
今の私には、その違いが明確にわかる。

本書は、その「サムシング」を、凡人の目から説き起こしたものである。
本書を読んで役に立つのは、かつての20代の私と同じく「サラリーマンとして能力が高ければ起業可能」だと思っている人にとって、であろう。
そりゃ大きな勘違いだからである。
著者はいう。「どこかおかしい人だから、起業をして経営者である」と。
全く同感である。

多くの中小企業経営者は、サラリーマン向きではない。おそらくサラリーマンとしたら、まったく落第みたいな人が実に多いのだ。
気遣いはない、バランス感覚なんてムリ(笑)、自己中で当然という感覚、そのうえ鈍感ゆえにタフ。
こういう感覚こそが、実は「起業」にとって、もっとも大切な資質ではないか、と著者はいう。

そして、このように喝破する。「そんな人は、そもそもこの本を読みません」大爆笑である。まったくだ!
「凡人で、起業しようかどうしようかと考えている人に」この本を読んで欲しい、といっている。
その意味は、たいへんよく分かる。
本書の価値は、いささかでも「実践」で悩んだ人たちには自明であるが、そうでない人には「手垢の付いた体験談」としてしか読まれないだろうとも思う。惜しいかな。

評価は☆☆。私は、とりあえず「一読して損はない」と思う。

昨年読んだ中で、「貧乏は金持ち」橘玲は出色の出来であった。
この本の特色は、起業本の中でも思い切り「志が低い」ことにあった。
上場しようとか、社員を100人雇うとか、そんなことは毛頭考えない。自宅兼事務所で、どうやってリスクを低くして、最小限度の税金の支払いで済ませて、余剰資金を運用できる立場をつくるか?ということに主題が絞られていたのである。
思えば、いまや大企業に就職したから大丈夫、という時代ではなくなった。
金融も証券も、一生つとめられる職場ではない。商社は言うに及ばず。

今や、年功序列で定年退職まで望めるのは、公務員だけとなり、かくして女子に人気の職業ランキング第一位が「国家公務員」第二位が「地方公務員」である。
この公務員の職を争って、男子学生は競争を学生時代から繰り広げる。言うまでもなく、恋愛市場において、公務員属性は強い武器だからだ。
その公務員の親玉の与党が「格差是正」だったというのだから、世の中のブラックジョークは凄いと思わざるを得ないねえ。

閑話休題

つまり、大企業は勿論で、多くの中小企業に奉職するサラリーマンにとっては、もはや「安全」はないわけである。
サラリーマンといえば、まずは「無難」が取り柄の職業なのに、である。
じゃあ、いっそサラリーマンに見切りをつけて、という話が出てくるわけだ。
しかし、である。「脱サラ」といえば、昔から至難の業と相場が決まっている。誰もがホリエモンや三木谷氏になれるわけがないじゃないか。
なのに、世の中の起業指南本は「あなたも起業家に」という。実は天才経営者の才能が、、、というわけだ。
これはどう考えても嘘だろう。
で、とどのつまりが「志の低い起業」である。いや、ホントはそれすら難易度からいえば、決して安くはないんだけどねえ。

起業を志す人はもとより、うっかり起業してしまって「うーむ。。。」と思っている人にも、一読を勧めたい。
人は、誰しも、自分のことが一番わからないものだからである。