Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

イントルゥーダー

イントゥルーダー。高嶋哲夫

この人は、アメリカのシナリオライターのような小説を書く人だと思っている。
良くも悪くも、きっちりと受けるパターンを知り尽くして小説を書いているのだな。
そういう意味では、日本の作家=「表現者」というイメージよりは、練達の職人という感じである。

主人公の羽嶋はコンピューターメーカーの創設メンバーで、そろそろ50になろうかという年齢であるが、いまだ開発の第一線で指揮をしている。
その羽嶋に、ある日電話がかかってくる。
それは、昔、会社の創業時代につきあっていた女性であった。
彼女は、あなたの息子が交通事故にあって死にそうだと告げる。
羽嶋と別れた時、すでに彼女は身ごもっており、シングルマザーとなっていたのだという。

あわてて病院に行く羽嶋だが、その後、警察から事情聴取を受ける。
なんと、息子から覚せい剤が検出されたのだという。警察は、彼が売人だった可能性もあるという。
羽嶋は家宅捜索を拒否するが、なぜ息子が事故にあったのか、その原因を調べて新潟県に行く。
そこで、息子は、地元の大学で地盤データを入手していたことを知る。
息子は、原発の耐震シミュレーションを開発していたらしい。
偶然にも、その電力会社は、羽嶋が開発したスーパーコンピュータを原発に導入したばかりであった。
事件の真相に、原発利権がからんでいるらしいことを羽嶋は知る。
やがて、思わぬ人物の裏切りと真相が明らかになって、彼は、生前の息子と連絡をとっていた人物を知る。。。

著者はもと原発技術者である。
それだけに、原発については記述は正しいところが多いと思う。
技術には完全はない。われわれは、それを了解しながら生きている。そうでなければ、そもそも現代の生活は成り立たない。
原発という人たちは、そのデモに自動車でやってくる。
しかし、一方で、たった一度の事故が深刻であれば、それは取り返しがつかない結果を招くことも事実である。
その手前でとまった事故は、単に運が良かったに過ぎない。事故のレベルは、どこまでも次の事故の安全を保障しない。
その技術を使うこと自体が、果たして問題ないと言えるのか?

本書の初出が1999年である。
そこで繰り広げられている議論は、今とまったく変わりがない。

評価は☆。
よくできたエンターテイメントだと思う。

コンピュータやインターネットに関する叙述は弱いが、それは仕方ない。専門外というのは、そういうものである。
それを割り引いても、まあ、いいんじゃないかな。

私見であるが、原発については、安全でないものを「絶対安全」だと言い続けた、その病理が問題なのだと思う。
では、その病理を除いたところで、果たして成立可能なのか?
それが問題ではないかと思っているのだが、残念ながら、再稼働をめぐる論議でも、まったくそういう方面の話にはならない。
だから、結論がどうであれ、真の問題点はそのまま温存されてしまうのではないか、というのが私の危惧するところなのである。