Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

世論の曲解

「世論の曲解」菅原琢。副題は「なぜ自民党は大敗したのか」

昨年末の2012総選挙で、与党民主党は歴史的な大敗を喫し、政権は再び自民党に戻った。
「一度変えてみたらいい」どころではなかった、ぜんぜんダメじゃんか、という選挙民の声が聞こえてきそうな結果であった。
しかし、私は思う。
再び、自民党が大敗し、下野する場合はあり得るのか?
本書を読んだ感想でずばり言えば「あり得る」ということである。
今や、選挙においては「なんでもある」と思ったほうが良いのである。

本書の分析は詳しく読んでもらいたいし、今でも一読の価値は失われていない。
本書の終わり近くで「自民党復権は、まずない」と断言していたことをもって、本書を「オワコン」だと揶揄する声はあるだろう。
しかし、その前提としては「民主党に、よほどの失政がなければ」となっているのである。
巷間よく言われることであるが、自民党の2012衆院選勝利は、まさに「敵失」によるものである。
自力再生は難しかった、という事実は、この際、認識していたほうがよい。
古来これを「勝って兜の緒を締めよ」というのである。

本書では、2009衆院選における自民党の大敗北を「小泉改革負の遺産」だとする俗説を容赦なくぶった切っている。
何度もマスコミはそう連呼しているが、少なくとも客観的な投票分析において、選挙民の「小泉改革批判」は小数点レベルの離反でしかない。
もっといえば、小泉登場以前に、自民党の得票率は長期低落を続けていたのであり、小泉首相は歴史的に初めてこれをストップをかけたのみならず、都市部で低下し続けていた得票を伸ばしたのである。
自民党が長年続けてきた農村部への保護的政策は、農業以外の産業へ就職したい若者の都市部への流出をまねき、一方で公共事業の地方配分による都市化は各地方に「ミニ東京」を作り出す結果となった。
かくて、ほとんどの農家が米作専業を離脱し、兼業農家化したことで、各地方の都市部で働くサラリーマン化したのである。
地方というが、その実態は「サラリーマンの合間に農業を行う」兼業農家であり、現金所得の大半を会社で稼ぐ「都市型住民」なのである。
小泉改革の本質は、はじめて「農村への利益誘導政治」から「既得権益の打破による都市民の生活向上」へ舵をきったものである。
この「都市対農村」の図式を頭にいれなければならない。
そうでなければ、2009年衆院選において、自民党が大敗を喫した1人区で、どうして民主党が得票を重ねたのであろうか?
どうみても、当時の民主党小泉改革以上に公共事業を削減する構えであった。
地方の「切り捨て」などという議論が正鵠を射ているとするなら、民主党が得票した理由がない。
マスコミの紋切り型の分析(と呼べるレベルでないが)によって、世論は曲解されたのである。
第一次安倍政権において、明らかに支持率が低下したのは何よりも「造反議員」の復党であった。
選挙民は、これで「安倍政権に改革の意志なし」と見たのである。
それは、福田政権であっても同様だった。
麻生政権を「国民的人気」と報じるに至っては、なにをかいわんや。麻生首相の人気は、秋葉原やネット住民で盛り上がっていたものの、全国的には「失言の多い漢字の読めないおじさん」であったのだ。
残念だが、あのときの選挙結果をみれば、そう言うしかないのである。

評価は☆☆。
少なくとも2009年の「自民党大敗」について、まともに分析をしたほとんど唯一の書であろう。
他の出版物は、だいたいが思い込み、我田引水ばかりであった。

本書を読んで、2012衆院選で大勝した自民党の行き先もある程度、見えてくるのである。
選挙民が民主党に愛想をつかしたのは、公約違反の連発と政権担当能力のなさの露見によるものであろうが、その根底にあるのはあくまで「改革」への意志であろうと思う。
安倍首相は、前回の失敗で、実はその点を深く認識している、と私は見る。
今回TPP参加へ大きく舵をきったのは、おそらくそれであろう。
地方自民党議員への配慮から、復党組を認め、それから急降下を始めた前回の政権のことが頭にあるはずだ。
それゆえに、都市民への利益になるTPPへ大きく踏み込んだ。
事実、TPP参加表明以後も、安倍政権の支持率は全く落ちていない。

これから難しいのは、アベノミクスによる物価上昇であろう。
ここまで為替が反応するのは、総理にとっても予想外であったと思われる。
日本の貿易収支はすでに為替中立であるから、円高と円安でメリットデメリットはイーブンである。
輸出ドライブがかかっても、輸入物価の値上げにより国内消費が冷えることで相殺されてしまうだろう。
そして、人口減による市場縮小が背景にある中で、人件費の向上余地がさほど大きいと思えないのである。
物価だけあがって消費縮小すると、これはスタグフレーションに落ち込む。
だから、今の水準で「インタゲ2%」と狼少年のように連呼しつつ、実際は物価動向を注視することになるだろう。
難しい舵取りが続くはずである。
人口減による市場縮小が背後にある以上、公共投資による乗数効果は限定的で、最終的には為替相場変動によって海外へ拡散してしまうのは間違いないから、あまり物価上昇をハイペースで許す余地がない。

すでに打てる手は限られている中で、ギリギリの最善手を求めている第二次安倍政権が成功するように、心から祈っている。