Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

千年働いてきました

「千年働いてきました」野村進。副題は「老舗企業対国ニッポン」。

日本には、創業100年を超える老舗企業が多数ある。
驚くなかれ、その数10万社超である、という。
これは、支那や韓国、香港などに比較しても突出して多い数字である。
なぜ、日本にはこんなに老舗企業が多いのか?
いくつかの老舗企業にインタビューを行ったドキュメントである。

結論としては、やはりコアコンピタンスを大切にしている、ということに尽きる。
テレビで有名な金地金販売の田中貴金属工業は、実は携帯電話のモーターブラシ(バイブ機能)の最大手であるという。
小さなモーターが携帯電話の筐体を揺らす。そのためには、レアメタルによるブラシが必須らしい。

携帯電話には、そのほか、金箔屋さんや、最終処理(溶かして貴金属を取り出す)まで、老舗企業が数多く関与している。

実は、これらの老舗企業の活躍は、本書が初めて指摘したことではなく、唐津一氏が「ものづくり大国日本」で指摘したのが嚆矢であるように思う。
当時は、80年代バブルまっさかり。
「これからは、金融で世界を制する」といって、ニューヨークのエンパイアステートビルやらゴッホの絵やらを買いあさっていた。
そのときに「いや、日本のコアコンピタンスは、ものづくりである」と言い出したのだから、まさに衝撃だった。
そのとき、たとえば日本の高品質コンデンサーは和紙の伝統技術がないと成立せず、携帯電話の電池には職人の「深絞り」技術が必須である、と説いたのである。
本書は、唐津本のリバイバルだと思う。

評価は☆。
日本の産業のすそ野の広さを再認識する。

しかしながら、もう一つ、やっぱり指摘したいことがある。
それは「ものづくり日本」は、今や相当に空洞化しているという事実である。
貿易収支の赤字が続いて、燃料費すなわち原発停止に伴う石油天然ガスの輸入が原因なのだ、とする主張がある。
しかし、昨年度の燃料費輸入額は、実は2008年と同じである。
赤字の原因は、簡単にいえば「売上不振」であり、その原因は生産拠点の海外移転による。
長く続いた円高デフレは、もはや日本でのモノづくりを困難にしてきた。
貿易収支は2011年から赤字を記録したが、それ以前から毎年減り続けており、別に原発が停止しなくたって数年内に赤字転落は確実だったのは、金融業界の人間は誰でも知っている。
原発を動かしたところで、目先回復して、また数年後には赤字になる。
そのときは、もう再稼働すべき原発はないのである。

これは、日本という国家の体質が変ってきていることを意味している。
先進国であれば、どの国も、同じ流れをたどるのである。
ポスト生産大国の戦略を描かなくてはならないのでだ。
貿易収支でなく、経常収支がクロであれば問題ない。それを考えるべきだ。
今さら「三丁目の夕日」を懐かしんだところで、時計の針は巻き戻せない。

企業は環境適応業である。環境に適応できなければ滅びるだけである。
老舗は、それなりのやり方で、環境に適応してきた。
そこをこそ学ぶべきだよなあ、などと思うのですなあ。