Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

スマートグリッド

スマートグリッド横山明彦。電気新聞社刊。

原発事故以来、再生可能エネルギーが取りざたされているが、どうも国内状況をみていると、いまだ原発の是非で国論が割れているような状況のようである。
私としては、そのまま、あと10年論争をやっていればいいじゃん、と思う。
なぜって、これから少子高齢化で電気需要が減っていくので、10年後は、自動的に脱原発になってしまうから(笑)
もっとも、そのときになれば、電気料金で積み立ててあるはずの廃炉費用が全然足らなくなって右往左往するでしょうがね。
一番肝心なのは、貯蔵設備および最終処分場の手配であるが、道路建設と同じで、これらの用地費用だけは鰻のぼりにあがっていくだろうから、数十年前の予測があたるわけがない。

まあ、宗教論争は、それぞれの熱心な信徒たちにお任せするとして。

スマートグリッドは、再生可能エネルギーの導入と同時に騒がれ始めたのだが、本書で丁寧な解説がある。
このスマートグリッドの定義は、各国ごとに異なっているのだそうだ。
欧州では、偏西風が安定的に吹くため、風力発電の比率が高いのであるが、いくら安定的とはいえ、発電量は短時間に変動する。
電気が不足すれば困るので、バックアップ用に火力が低速運転しているわけだが、予想外に発電量が増えてしまうと、電源周波数が上がり、ついには域内全域が切り離されてしまう(大規模停電)。
電力不足でなくて、過電流が停電を起こすのである。
そうはいっても、火力発電の低速運転にも限度があるので、無限に電力を落とすわけにはいかない。
そこで、なんらかの方法で、過電力は捨てるか消費するしかないのである。
または、風力発電を切り離す。
そのためには、発電量と消費量を細かくチェックして、およそ20分後の需給予測を正確に持つ必要がある。
これが欧州のスマートグリッドである。

米国は事情が異なり、大規模停電は電力不足によっておこる。
だから、つねに、不足電力を融通し合うような仕組みが必要だ。
と同時に、過電流が生じた時には、IT技術によって、自動的に各家庭のエアコンのスイッチをいれたり(不足のときは消す)
電気自動車の充電を自動で始めたりする。
電気自動車1台の充電量は大したことがないが、全米で電気自動車が普及して、それらのスイッチを自動で入れたり切ったりすれば、
巨大なバーチャル蓄電設備になる。
グーグルあたりも、実は参入を狙っているらしく、何が出るか予想もつかない。

一方、日本はご存じのとおり、発電と送電が分離されていない垂直構造なので、世界の中でも制御はもっとも進んでいる。
実は、スマートグリッド先進国である。
しかし、もしも発送電分離になったりすると、さらに細かい制御が必要になる。
そちらの分野は、まだ研究段階である。

評価は☆☆。
巻末のIBMとの対話が面白い。
つまりスマートグリッドは、これからの産業分野だと完全に認識されている、ということである。
金が動くから、企業はビジネスチャンスを求めて動いている。
当たり前であるが、企業は神学論争にはまったく興味がないのである(苦笑)。

アメリカがスリーマイルを起こしてから、新規の原発が作れなくなった。
アメリカには100を超える原発があるが、おそらく、今後は寿命を迎えたものから廃炉していくだけである。
ただ他国に「脱原発」というと、影響が大きいので黙っているだけであろう。
シェールガスはあるし、あとはスマートグリッドを進めるはずだ(オバマの選挙公約でもある)。

日本は、再生可能エネルギー太陽光発電に42円という馬鹿げたFIT価格を設定したおかげで、市場が大きくゆがんでしまった。
とりあえず42円の指定を受けただけの連中が多いので、実際に稼働しているのは申請金額の10%未満とテイタラク
安倍政権になって、すばやく38円まで下げたが、まだ手ぬるい。
品質が悪い電源で、しかも設置工事が簡単なのだから、こんなものはもっと下げるべきだ。
本来は、再生可能エネルギーでも、もっと高品質なものに注力しなければいけない。
そうすれば、網に対する負荷も軽く済むのである。
そういう意味での大本命は、小水力であると、私は思っている。