Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

三都物語


三都物語というと、まるでJR西日本のCMみたいだが(笑)、まさか船戸与一が古都を描くわけもない。
この小説でいう三都とは、横浜、台中、光州なのである。

三都には、それぞれに背景がある。
共通しているのは、この三都は首都でなく、また、かつて首都だったこともないことである。
そして、野球チームがあること。
驚いたことに、この小説は、船戸与一の手による「野球小説」なのである。

船戸与一といえば「猛き箱舟」や「砂のクロニクル」といった野太い男の冒険小説、というわけだが、この作品は連作短編集である。
前作の登場人物が、つぎの都で繰り広げる物語は、決して甘い結末を迎えない。
野球賭博がばれそうになったコーチは女に刺され、名スカウトは古い仁義を信じて球児の親の打算に騙される。
日本の野球界を引退したあと、肩が癒えて光州で守護神としてカムバックした名投手は、再びつまらない喧嘩のために握力を失い引退する。
そこにあるのは、失意と挫折の物語である。
しかしながら、そういう落ちこぼれ、運命に翻弄されながら、男たちはそれでも強い精神力で、その場でできるベストを尽くそうとするのである。
なんというタフネスぶりか。
やはり船戸与一の作品だと実感する。

評価は☆☆。
なかなか、いいんじゃないか。

驚いたのは、作者の野球に対する造詣の深さである。
失礼ながら、船戸与一はピストルや格闘術、サバイバルに詳しくても、野球なんぞはからっきしわからないようなイメージがあった。
野球は、攻守がスリーアウトで交代しながらイニングが進むスポーツで、ある意味ではルールのカタマリである。
いわば、人間世界が考え出した細かい規則の集大成みたいなところがあり、官僚的なスポーツだと思う。
だから、船戸には合わないだろうと。。。
そんなのは、私のまったくの先入観であった。
「くいっと曲がるスライダー」を効果的にするのに「懐にストレートを投げておいて」交互に投げる、などという細部をきちんと描いてある。
そして、変化球を活かすのはストレートの速さだ、という「誰でも知っている月並みな知識」を冷笑する余裕すら漂わせる。
それは、逆指名制度の高校球児にまで及ぶのである。
この制度が、ドラフトをいかに捻じ曲げているかは、野球ファンでないとピンとこないものだと思う。
天晴、船戸は野球を取材させても天下一品だったというわけだ。
そうして、とても面白く、異色の「野球小説」が出来上がった、というわけである。
恐るべし、船戸与一

野球が好きな人なら、読んで損はない一作とお勧めする。

暑い夏と言えば、枝豆とビール、父が見ていたナイター中継を思い出す。
最近でもナイター中継はやっているんだが、なんとなく、昔のような風情がなくなった。
こちらが年を食ったためか、はたまた社会が変わったのか、あるいは野球がスマートになりすぎたのか。
それとも、昔の記憶が美化されるためか。

久しぶりに、ナイター中継をぼーっと眺めてみようか。
もちろん、ビールと枝豆で。