Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

新小岩パラダイス

新小岩パラダイス」又井健太。

新小岩。東京都区内のはじっこである。
しかし、あきらかに隣の千葉の市川市よりもイメージは下(苦笑)。
下町とはいっても、両国や深川のような情緒はなく、寅さんで有名な柴又のような呑気さもない。
パチンコ屋と安い居酒屋がひたすら立ち並ぶ町だ。この町は、下町ではなくて、むしろ英語のダウンタウンのニオイがする。
そんな新小岩が舞台である。

主人公は、ある朝、同棲していた女に100万円のなけなしの金を持って逃げられる。
派遣社員をリストラされた翌朝である。
自暴自棄の主人公は、新小岩でへべれけに酔っ払ったところを、奇妙なニューハーフの大男に助けられる。
彼が案内されたのは「枝豆ハウス」なる、おかしな人物たちが済むシェアハウスだった。
奇妙な共同生活をしながら、彼は、孤児院で一緒に育った旧友の手助けで新宿の職場でコールセンター社員として立ち直ることを目指す。
ところが、その職場で行われている仕事は、どうやら、詐欺のようであった。
「金が欲しい」「詐欺で善良な人をだましていいのか」悩む主人公に、旧友は言い放つ。「しょせん、世の中は金の奪い合いだ」
主人公もカネの魔力にとりつかれていくのであるが、一方で、勝手な生き方をしている枝豆ハウスの連中にも惹かれている。
そして、転機。
「でかい仕事」として地面師の手形詐欺をしようとする主人公のターゲットは、なんと新小岩の地主の爺さんだったのである。
彼は悩んだ末に、土地の取引を中止する。
しかし、旧友は、地主の爺さんを騙す。結果、枝豆ハウスは解散しなければならないことに。
皆に土下座してわびる主人公は、詐欺の証拠を集めて、警察に自首する。せめての罪滅ぼしはそれしかない。
逮捕勾留を受け、なんとか執行猶予を受けて戻ってきた彼を、枝豆ハウスの仲間は暖かく迎える。
土地取引は、彼が自首したことによって中止になり、枝豆ハウスは守られたのだった。
そして、彼は「自分の本当の欲望」に忠実な生き方をしよう、と考えて、再び、新小岩から再生をはじめる。。。


なかなか面白い。☆☆。
角川春樹小説賞の授賞作であるが、これがデビュー作だという。
青臭い書生的な雰囲気がゼロなのは、作者自身の放浪生活や職を20以上も転々とした経験が染みついているためだろう。
実際に新小岩に在住したことがあるようで、本の中に出てくる光景は「ははあ、あそこだな」と、だいたい分かる。店も、だいたいは、予想がつく。ついでに言えば、駅前ビルに、たしかにオカマバーもある(笑)

カネの有様を書くのは、大衆小説である。なぜか、純文学では、このテーマは大上段には来ないのである。
カネがない貧困さを大上段に持ってきた作品はあるが、そっちの方面にいくと、なぜか日本人は大乗仏教的な「この社会が」みたいなマルクス主義的展開になってしまう。
蟹工船の世界である。
しかし、我々が親しみを持つのは、小乗的な「私がどうするか」である。世の中のことは、誰か偉い人が考えて論じればいいじゃないか、ということになる。
いや、そうじゃないだろ、という意見はわからんではないが、正直なところ、オノレのこともどないにもならんやつが社会を論じても、酒場の与太話と同レベルである。
そういう話は大説、すなわち論文でやればいいだろう。
私が読みたいのは「小説」なのだ。大説じゃない。

作者は、カネと理想の間に、真実があるという。そこで、何を見つけるかしか、ないという。
私もそう思う。
カネがなくては、話にならんのである。しかし、カネだけのために生きるには、人生はあまりに勿体ないと思う。もう少し、楽しんだほうが良いだろう。
楽しむというのは、その過程を楽しむわけである。

上場したら楽しいと思っていたが、大きな間違いだった。
今は、零細企業を細々とやっている。しかし、自由である。お金はないけど、まあ、やっていける。
それが、今の自分には、とても楽しいことである。

いつまで続くかは、わからんけどね(苦笑)。一寸先は闇。ま、そんなもんですわなあ。