Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

星を継ぐもの

「星を継ぐもの」J・P・ホーガン。

一時期、ハードSFというのはすっかり衰退していたのであるが、本書がきっかけになって復活したといわれるくらいの名作である。
物語は、人類の月探検によって、月上で宇宙飛行士の遺体が見つかったことにはじまる。
調べてみると、その遺体は、なんと5万年前のものだった。
言うまでもないが、5万年前に、人類は月へ行くテクノロジーを持っていない。
さらに詳細に調査すると、遺体は生物学的にはまったく人類と同一であると確認された。(このあたり、現在ならDNA分析で一発なのだが、1980年初出の本書では、生物学的特徴の積み重ねによる推論、となっている)
さて、ということはどうなるか?論理的には
1)地球上には、かつて月探検可能なテクノロジーがあった。その後、なんらかの理由で、その文明は跡形もなくほろんだ(地球由来説)
2)どこかの異星から、人類そっくりの探検者が5万年前に訪れて、そのまま月で遭難した(異星由来説)
しかありえない。
この説は、2つとも問題がある。
地球由来説ならば、どうしてそんな高度な文明の遺跡が、まったく今も発見されていないのが謎である。
異星由来説は、どうして異星にそんな地球人そっくりの生命体が生じたのかが謎だし、それから5万年の間になんらの接触もないのもおかしい、ということになる。
そのうち、月の遺体から回収された遺物の解析が進み、そこに記された文字が解読され、彼らが間違いなく異星からやってきたことがわかった。
それは、今は小惑星になって砕けてしまっている惑星ミネルヴァの出身であることが判明した。
一方、人類はさらに太陽系の探査を進め、木星の衛星ガニメデにおいて、人類とはまったく異なる知的生命体の遺跡を発見する。
物語は、このミネルヴァ人とガニメデ人の不思議な関係を解きほぐすように進んでいく。。。


30年前に、読み飛ばした記憶がある。
あらためてじっくりと読んで、なろほどねえ、と思った。
評価は☆である。

ハードSFの金字塔ではあるが、残念ながら、今となっては科学的に古すぎる記述も目立つ。
特に、生物学的な記述は絶望的である。
今ならば、DNA分析で一発の話が、もたもたと進んでいく有様は、時代物だなあ、と思う。
しかし、すべての小説が、そういう運命を一方では持っているわけだ。

たとえば、ミステリをみてみよう。
シャーロック・ホームズは、DNA分析はおろか、指紋分析だって自由ではない。
タクシーもなく、出動は馬車である。
しかし、今読んでも、ホームズ譚は非常に面白い。
その論理的な展開に加えて、ホームズやワトソンの人柄、古いロンドンの風情までが、みな、小説の魅力となっている。

そういう意味では、この「星を継ぐもの」は、今やっと少し古びてきたところだろう。
少し古いのは、ただのポンコツである。
すごく古いのは、立派な骨董、遺跡になる。古いというのは、ある程度を超えれば、それだけで大いなる価値である。
問題は、そこまで、それが残るか?という点にある。

この小説を読んでいて、いま、30年前の作品だが、あと70年残れば、100年前の名作ということになる。
残るだろうか?
直観だが、なんとか、生き延びそうな感じがするわけである。
なぜかといえば、この本は、ある意味ですごく読みやすいから。(某ネット書店の書評で本書を「わかりにくい」と書いている人がいるのに心底たまげた。これは難しいんじゃ、ラノベしか読むものはなかろう)
読みやすくて、そこそこの充実感がある。だから、残るだろうと。
しかし、200年は無理じゃないかな。
そういうわけで☆なのである。

この書評が当たったかどうか、私には、知る術はないわけですが、この書評を読んでいただいている諸氏もそうであろう。
ま、時代がどうあれ、お互いに好きな本を好きなように読むのが正解、ということなんでしょうなあ。