Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

中国共産党「天皇工作」秘録

中国共産党天皇工作」秘録」城山英己。

中共全人代は、習近平氏のワンマンショーで終わった。
「ポスト習近平」の抜擢はなかったようで、習近平氏はどうやら「長期政権」維持の構えである。
日本でも、安倍首相が三選を確実にする選挙結果を得たが、日中両国がこの時期にいすれも長期政権を選択したのは面白い。
すでに、日中はパワーゲームを展開する間ではないが(日本の国力が確実に下回っている)それでも、尖閣問題を筆頭に多少に鞘当ては存在する。
長期安定政権のほうが、なにかと有利ということは言えるだろうと思う。

さて、本書であるが、中国共産党首脳のいわゆる「皇室外交」の歴史的な経緯を描いたものである。
著者は中支特派員ということで、リアルな描写で迫力がある。

本書によれば、中共天皇工作の源流を作ったのは、毛沢東野坂参三である。
毛沢東は延安で、日本人捕虜の宣撫工作を行う必要があって野坂を重用していた。
ところが、日本人捕虜たちは共産党の思想に共鳴はしても、天皇を否定するように言われると、大変な心理的抵抗を示して工作(洗脳)がうまくいかない。
毛沢東は野坂に相談すると、野坂は
「日本人相手に天皇を否定するのは難しい。むしろ、革命のために天皇を利用するべきである」
と進言する。
毛は対日工作で野坂を高く評価しており、その進言を取り入れることにしたのである。

その後、中共は核開発をめぐってソ連と対立。
中共は、ソ連と対立するなかで、米国との国交回復を望み、その役割を日本に期待する。
しかし、田中角栄は自分の外交成果をあげるほうが興味があった。折しも、石油問題で米国と対立していたことがあって、日中国交回復は米国のまったく関与しないところで行われることになる。
一方、米国もキッシンジャー外交があって、米中国交樹立を迎える。米国は太平洋戦争を起こした結果、なんの成果もなかった支那に初めて手がかりを得た。

これらの国交回復の過程で、毛沢東周恩来は、反日を徹底的に封印させる。
民衆レベルでは戦地になって被害を受けたものも多く、「日本人が来たら殴ってやる」と息巻くものも少なくなかった。
しかし、このような反日行動は国益にならないと判断した毛は、徹底的にこれを押さえ込むのである。
したがって、日中国交回復時期に、反日問題が起こったことはない。

その後、毛沢東の死後、政権は紆余曲折を経て「改革開放の総設計者」小平のものとなる。
順調に改革開放を進めていたように見えたが、1989年に天安門事件が起こる。
趙紫陽は失脚し、事件に抗議した西側は経済制裁を行う。
ここで、中共天皇訪中カードを使い、苦境を打破するのである。
天皇訪中は、それ以前にも検討されていたが、中曽根氏が反対し、少なくとも昭和天皇のときには訪中はないことになっていた。
ここで、昭和天皇崩御があり、平成天皇が即位されたことで、この機を逃さず中共指導部が動いたのである。
もちろん、田中角栄が地下で動き、訪中は成功。これをきっかけに、中共経済制裁解除に成し遂げる。
中共内の「ジャパンスクール」がもっとも力をもっていた時代である。

しかし、国内の政治改革運動に手を焼いた中共は、政権の正当性を抗日戦争勝利に切り替える。
ここで反日が始まり、江沢民につながる。
靖国参拝にも執拗に抗議を繰り返したが、日本の小泉首相はなんとしても参拝中止要請を受け入れなかった。
ついに中共は諦めて、次の安倍政権に日中関係の修復を託すことになる。
そして民主党政権のとき、あれほど習近平天皇との会見にこだわった理由も見えてくる。
中共の歴代指導者は、天皇と会見することで、指導者であることを国民に示すという効果があるのである。
おかしな話だが、中国のトップであるということ=天皇と会見できる、という理解なのである。
もしも習近平が訪日して、天皇と会見できないとしたら、それは習近平がトップでない、という意味になる。
このとき天皇の政治利用という批判をものともせず、会見にこぎつけたのは小沢一郎だった。
それがあるので、小沢はいまだに中共には「恩人」ということなのだ。


評価は☆☆。
力作である。
当時の外交の裏側が「天皇」というキーワードで見事に解きほぐされていく。

おそらく、平成天皇が退位されたあとで、新天皇と中国指導者の会見が再び、セットされることになるだろう。
そのとき、天皇と会見するのが誰か?
習近平であれば、その体制がある程度の長期間続くというサインであるし、もしも別の人物だったら、その人物がトップになる。

最近、韓国が天皇訪中で運動しているようである。
ようやく天皇の価値に気づいて、かつての中共天皇訪中と同じく、天皇訪韓で外交的な苦境を打破したいという思惑であろう。
しかし、おそらく、それは無理であろう。
天皇を「日王」呼ばわりし、無礼極まりない韓国に対して、安倍政権は厳しいスタンスをとる。
セガサミーの里見会長-谷内局長のラインでカネと女をつかって議員を籠絡してくるという韓国大使館のいつもの手を使うだろうが。
たぶん工作は成功しないし、そう信じたい。

それにしても、北がなにかとうるさい昨今に、韓国のような国は困り者だと想うわけである。
あれは、関ヶ原の小早川じゃないかなあ、と(苦笑)。
ハッキリした敵よりも、なお始末が悪いんじゃなかろうか。
つくづく、日本の周辺というのは、ろくな国がありませんねえ。