Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

ランド

「ランド」副題は「世界を支配した研究所」。アレックス・アベラ。

ランド研究所は戦後、ダグラス社と空軍が共同出資して設立された研究所である。
対日戦で有名なカーチス・ルメイが設立に参画している。
米国の科学者は戦時中に軍事研究に動員され、多大な成果をあげた。マンハッタン計画もそうだし、戦略爆撃の方法立案もそうである。
第二次大戦の終了と同時に、科学者は解散することになったが、軍に科学者を動員することの有用性を知った設立直後の米空軍は、研究所を設立することにした。
それがランド研究所である。
この研究所は、実に27人のノーベル賞学者を輩出し、単に軍の研究所という枠を超えて、戦後の米国の政策立案に深く関わる。
一方で、アイゼンハワー大統領が退任時に警告した「軍産複合体」の総本山でもあった。
もっとも、ランドと企業の折り合いは悪く、設立後しばらくしてダグラスはランドを切り離している。あからさまにダグラスの利益になる研究を優先させるわけにもいかず、一応は中立でいなくてはならない。ダグラスにとって、ランドは厄介者だったのである。
アイゼンハワーはもともと「軍産政複合体」と草稿には書いていたのだが、演説前に「政治家まで含めると、議員達の反感を買ってしまい、軍の改革がうまくいかない」と懸念して「政」を除くことにした。
実際には、政治と軍事に学者が介入して両者が結びつく(その結果、軍事産業が儲かる)ことを警戒したものだった。

ランド出身で有名な学者は「悪魔の頭脳」フォン・ノイマン(数学の天才でゲーム理論の始祖)と、そのゲーム理論を発展させた「相互確証破壊理論」暴発を防ぐための「フェイルセーフ」のアルバート・ウォルステッター、「博士の異常な愛情ハーマン・カーン、限定戦争論ドナルド・ラムズフェルド(のちに国務長官)、「歴史の終わり」で冷戦と共産主義の終わりを宣言したフランシス・フクヤマなど。枚挙にいとまがない。
ランドは、冷戦の開始とソ連崩壊、その後の新世界秩序、さらに現代の主流経済学、巨大な社会保険に関する実験(唯一の例)など、現代の社会の骨格を作ったといっても過言でないように思う。
ランドの仕事を理解することは、そのまま現代社会を理解することにつながるだろう。


評価は☆☆。
よくも、ここまで踏み込んで書けたものだと思う。
著者は、唯一、ランドの内部資料の提供を受けて執筆を許可された人物である。
とはいえ、少々書きすぎたらしい。現在では、ランドに立ち入り禁止になっているようだ(苦笑)。

ランド出身者の個々の業績について、多少の知識があれば、本書はさらに興味深く読めるだろう。
内容が濃密なので、少しづつ、じっくりと読むのに向いている。
合理性の殿堂と呼ばれたランド研究所の限界は、まさに「人間が常に合理的に(自己の利益のために)振る舞う」という前提であった。
行動経済学が出現するまで、その前提に疑問を挟む人はいなかったのである。
しかし、今では、なんの価値もない(と思われる)宗教のために、自爆テロが行われるようになり、この前提は事実の前に崩壊してしまった。
ランドの影響力の低下は、やむを得ないところであろう。

最近のフェイクニュースの話題であるとか、あるいは世間でなかば公然となっている陰謀論(たわいのない血液型の話から、ユダヤ金融支配論まで)を見聞するにつけて、私は思うのであるが「人間は、事実を積み上げるよりも、まず信じたいものを信じる」ということである。
「信じたいモノを信じる」と、それに合致する(ように見える)情報がゾクゾクと見つかるので「やっぱりホントなんだ」と余計に信仰を深めるのである。
で、都合のわるい情報はスルーするようになる。こうなれば、一丁あがり、である。

残念だが、真実はそんなに「安く」ない、と思うのである。
本物のラーメンとインスタントはやっぱり違う。
お湯をかけるだけの手間しかかけないのでは、それなりの味だと思った方がよい。
それだって、本物のラーメンを食ったことがなければ分からないわけだ
時間をかけて、本物を食ってみる手間を惜しむと、人生はつまらないのかもしれませんねえ。