Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

シャイニングガール

「シャイニング・ガール」ローレン・ビュークス。

シリアルキラー(連続殺人鬼)のハーパーは、幼少の頃に兄を見殺しにしたところから、その資質を発揮しはじめる。
主に襲うのは若い女性だ。
そのハーパーは、ある日、偶然に「家」を見つけた。
その「家」には不思議な能力があった。
「家」にいったん入って、再び出ると、なんと別の時代に来てしまうのである。
「家」はタイムマシンなのだ。ただし、どの時代に行くかは「家」が勝手に決めてしまう。
そして、ハーパーはこの「家」を利用して、恐ろしい殺人ゲームにとりつかれる。
幼い女の子で、将来、才能がありそうな子を見つける。
次に「家」を使って、未来のその子がまさにこれから才能を発揮しそうなときに、殺してしまうのだ。
そうやって女の子の可能性を摘み取るときに、この上もない充足感を感じるというマジキチである。
(まあ、シリアルキラーがまともなわけないからね)

このハーパーに殺されかけた女の子がカービーである。
犬の散歩中に襲われたのだ。
しかし、彼女は、死に物狂いで反撃した犬のおかげで、瀕死の重傷を負いながら生き残る。
犯人のナイフは犬の首に深くめりこんだまま、抜けなかったのだ。
カービーは、やがて大学に通いながら、地元の新聞社のインターンになる。
新聞記者の見習をしながら、自分を襲った犯人を捜すのが真の目的である。
カービーの指導を仰せつかった中年の野球担当の独身記者のダンは、最初はカービーのことを厄介者扱いしていた。
しかし、だんだんと彼女の熱意に理解を示すようになる。
実は、ダンは野球担当に異動する前は、殺人事件担当だった。
豊富なダンの経験はカービーに適切な助言を与える。

カービーは、連続殺人事件の現場に、その時代にそぐわない奇妙なモノが残されているのを共通点として発見した。
そのカービーについて、すっかり殺したと思いこんでいたハーパーは、まだ生きていることを知って激怒し、彼女の新聞社までやってくる。
カービーに会えずに一端引き上げるハーパーだが、そのハーパーを今度は逆にカービーとダンが追う。
二人はついに「家」にたどり着き、驚愕の「家」の性質を知る。
そして「家」の中で、カービーとダンは、連続殺人鬼ハーパーと対決することになる。


タイムトラベルSFとホラーの融合した小説である。
タイムトラベルものの定番である物事の完結(いかに矛盾なく現象をたたんでいくか)はきちんと書いてある。
こういう小説なので、場面がちょくちょくフラッシュバックしたり先に進んだりするが、章ごとにちゃんと○○年と書いてあるので、あまりごちゃごちゃすることはないと思う。

シリアルキラーのハーパーの殺人シーンがなかなかエグい描写で、あまりにあっけなく人がころころ死んでいくので「おいおい、大丈夫か(大丈夫なわけないけど)」と思う。
それが作者の狙いのひとつでもあるわけだ。
それを追うカービーは、ちょっとエネルギー過剰でADHD的に描かれている。
こういう感情過多で活動的なタイプは、英米では好ましい人物像として描かれるのだろうと思う。
ただ、日本人にとっては、ちょっと煩いと思われるかも知れない。
ネタバレしておくと、殺人鬼ハーパーは女性の社会的な進出を阻むクソのような男どもの象徴だし、カービーはそれに立ち向かう勇敢な女性の象徴なのである。
だから、ハーパーは徹底的に嫌な野郎でないといけないし、カービーは圧政に負けないエネルギーがないといけないのである。

評価は☆。
小説としては、まずまず面白いと思う。
ただ、著者の政治的理念がちょっと出過ぎかと思う。
著者自身も女性だから、透明なガラスの天井に対して怒りを持つのは当然だろうと思う。
しかし、小説としては、すこしそういう問題とは切り離した方がよかったのではないかなあ。
「小説」が「政治的主張の道具」になってしまうと、おもしろさが損なわれるような気がするのだ。
それは、政治的主張の種類を問わないような気がするのである。
「おもしろくてナンボ」だという、一種の覚悟を示して欲しいというのは、読者のわがままなんでしょうかねえ。