Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

水時計

水時計ジム・ケリー

舞台は英国のイーリーという小さな町。人口2万ほどだが、この町は観光名所の大聖堂とフェンと呼ばれる沼地が広がることで有名である。
主人公はドライデンで、地元の新聞記者をしている。
彼と妻は、数年前に一緒にクルマで旅行に行った帰りに、無謀運転をする対向車のために水路に落ちた。
ドライデンは気を失ったが、何者かによって病院の前に運ばれ救助された。
しかし、妻は絶望的な状況の社内に取り残された。
幸い、空気が残っている間に妻も救助され、大した怪我もなかったものの、そのときのショックで「閉じ込め症候群」に陥ってしまい、病院のベッドで植物人間になってしまった。
ドライデンは、事故当時、自分が妻を助けてやれなかったことを後悔している。幼い日にスケート中に氷が割れて溺れそうになったドライデンは水恐怖症で、そのため気を失った。

まず氷結した川の中に落ちている自動車が見つかり、小さな事件だと思い取材したドライデン。
ところが、その自動車のトランクの中から、首の骨を折られた死体が見つかる。さらに、死体には銃創があり、射殺されたのちに首の骨を折られたことがわかった。
異常に念の入った殺し方をされている死体が出たことで、一気に事件が動き始める。
一方、そのイーリーの町で、大聖堂の雨樋を修理する話が持ち上がり、地元の工務店が上がってみると、おそらく30年は経っているだろう死体が発見された。
大聖堂の党の上から飛び降り自殺したものの、地上まで落ちきらずに雨樋にひっかかり、そのまま年月が経ったものと考えられた。
死体の身元は調査され、30数年前に地元のガソリンスタンド強盗に入った3人組のうちの一人で、その後行方不明になった男だと考えられた。
ドライデンは、独自でこの事件の調査を開始する。
特ダネを得るためでもあったが、顔見知りの警官に、妻が植物人間になってしまったときの事件の捜査記録を見せてもらうためでもあった。
なぜか、そのときの捜査記録は非公開の極秘扱いで、被害者であるドライデン自身にも何も知らされなかったからである。
顔見知りの警官は、トランクから死体が発見された事件の捜査主任であった。
ドライデンは、ガソリンスタンド襲撃事件のときの3人組のうちの2人が、それぞれトランク死体と大聖堂の死体となっていることを突き止める。
では、残り1人の犯人はどこなのか?
そして、誰が二人を殺したのか?
ドライデンは、ついに犯人を探し当て、フェンの中に建つ古い学校の跡地に犯人をおびき出す。。。


著者のジム・ケリーはこの小説がデビュー作であるようだが、たいへんな好評を博して、シリーズ化する運びとなった。
小説としては典型的なフーダニット(犯人は誰?)小説で、あとで見ると手がかりは散りばめられているのだが、巧妙に隠されている。
ただ、ミステリとしてみると、大掛かりなトリックがあるわけではなく、地味な捜査ものである。
それでも評価が高いのは、イーリーという小さな町と、郊外に広がるフェンという独特の沼地が生み出す一種の寂寥感を見事に表現していることだろう。
主人公の屈折した人柄もこの風景にぴったりで、わかりやすい人物造形がされたラノベとは違う(当たり前か 笑)。

評価は☆。
なかなか面白く読めた。
こういうスタイルの小説なので描写が冗長なのだが、むしろ冗長さを楽しむ小説である。
「次はどうなった?」をすぐに知りたがるせっかちな人には向かないかもしれない。
小説なので、どうせ最後まで読めば犯人はわかるわけで、何も急ぐ必要はないのだから、ゆっくり愉しめば良いのだがなあ。

この主人公のドライデンも、将来を嘱望された若手記者の時代が有り、ロンドンの大手紙の花形記者の時代を経て、もろもろあって今では地方紙の記者になっている。
人生なんて山あり谷あり、とにかくそこで出来ることをしていくしかない。
英国も今日はブレグジット選挙で大変だろうが、やっぱり出来ることをしていくしかない。
そんな一種の諦観が、この小説には漂っているように思う。
私には、そこが親近感を持つ理由だったかもしれない。
若くてイケイケの時代は、こういう小説の滋味がわからなかった。
年を取るのも、そうまんざら悪いことばかりではないようですねえ。