Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

残酷な世界で生き延びるたった一つの方法

「残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法」橘玲

名うてのリバタリアン橘玲氏の本。ひさびさに読んだ。
私は40代のころ、この人のリバタリアニズムに大いに感化されたものである。
そこに東日本大震災、その他もろもろ。で、国家の本質つまり権力の凄まじさに身震いし、ヤワなリバタリアニズム市場原理主義)では歯がたたない、と思い知る。国家こそ、まさにリヴァイアサン(猛獣)であった。

それでも、市場原理主義というのは、他のアヤシイ主張と違って、説得力があると思っている。理由は単純で、論理性が優れているからである。
思想と宗教の間はとても微妙で、ややもすればごっちゃになるものであるが、市場原理は、かなり科学に近い。検証が比較的容易なのである。
単純に論理的に説明ができやすいほうが正しい、というオッカムの剃刀があらゆる分野に有効であれば、市場原理は「より正しい」といえる。

さて、本書である。
実は、私は20代の頃に、コンサル会社で教育研修のコーチをやっていた。企業向けの、いわゆる「自己啓発」といわれる類の研修である。
自己啓発研修というのは、前提があって
1,能力は開発できる(潜在能力を顕在化させることは出来る)
2,私を変えることは出来る(他人を変えることは出来ない)
3,私が変わることで、他人が変わることはある(変える、ではなくて変わる、である)
4,みんなが変わって幸せになる
というものである。
いかにも60年代アメリカらしい脳天気思想だが、なに、儒教だって「修身斉家治国平天下」と言っている。
平天下しようと思ったら、まず修身であって、天下国家を他人に語る前に自分を何とかしろ、と孔子様はおっしゃった。大して変わらんのである。

で、研修のコーチをやって、生意気なテクニックを覚えて、それなりに評判をあげていった私であるが、根本的に疑問があった。
つまり「その場で変化があった雰囲気がいくらあっても、しばらくすると、もとに戻ってしまう」受講生ばかりだった、というわけである。
上記の前提でいけば、1,2,ともに成立していない。
ゆえに3,が成立しない。なので、4,も成立せず、この仕事はみんなの幸福に寄与していない、というものである。

で、本書は「人は変われない」理由を、ものすごくクリアに説明してくれる。
ああ、なるほどなあ。。。私は、深く頷いたのである。
だいたい、類人猿の祖先から数百万年を経て生き残ってきた我々人類の仕組みが、そんな簡単に変わるわけがないのだ。
変わると思ったのは、猪口才な大脳新皮質の錯覚であって、我々が変わるには遺伝子レベルの変化が必要である。
私の弟は中学校の教師をやっているが、長年の経験で、簡単に生徒の成績を予見することが出来る。
つまり、母親の成績を見れば良いのだ、と。
残念ながら、父親はあまり関係がない。そういうことだ。
「人間、努力すれば出来る」は、そうでない場合も数多あるのであって、そりゃあなたがウサイン・ボルトに訓練の結果、100メートル走で勝てるか?という話と同じだ。
ただ、今の世の中の仕組み上、スポーツや芸術では飛び抜けていないとメシが食えないが、頭脳については、少し秀でていればメシが食える。
なので、容易そうに見える、というだけの話なのだ。


評価は☆☆。
やっぱり面白い。

さて、ではどうすれば「幸せ」に生きていけるか?
著者は、伽藍を捨ててバザールに行け、と言っている。
世の中は比較優位なのだ。
自分が大勢の人に比べて絶対的に秀でていなくても、相対的に、わずかの場所で秀でていれば、それで承認がもらえる。
それで幸せに生きていけばいい、と。
まあ、そこでどの程度メシが食えるか?という問題はついてまわるのだが、それさえクリアできたら、それが正解だろう。
「お山の大将」とは、悪い意味で使う言葉だが、あえて狙う意味もある。
そういう発想は、決して悪くない、と思うのですね。うん。