Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

バイオリニストは目が赤い

「バイオリニストは目が赤い」鶴我裕子。

N響の第一バイオリンを弾いていた著者によるエッセイ。
抱腹絶倒の軽妙な筆致で、楽屋の裏話も聞けて面白かった。

 

指揮者に対して辛口なのは、まさにオーケストラ団員ならでは。
だいたい、突然やってきて、アレコレと演奏に文句をつけまくり、コンサートのギャラの過半をひったくって逃げる奴らなのだ。よく思われていなくて当然だろう。
そんな中でも、著者が別格に評価していたのはブロムシュテットホルスト・シュタイン、マタチッチ。サヴァリッシュも評価は高いようだ。
いずれも、しばしばN響とのコンビで名演を聴かせてくれた名指揮者たちであり、思わず納得のメンバーである。
一方、ダメ出しされているのは、愛想が良いだけのフニャフニャで、、、えーっと、客演がやたら多いけど名前が出てないあの人あたりかな(苦笑)と勝手に想像してみる。
公平にみて、N響の音作りとの相性もあるように思うんだけどなあ。N響は、どっちかと言うと東欧的な渋い(ちょっと重めの)音色を目指しているように思う。フランスのような明るく軽妙洒脱、というわけにはいかんでしょう。

 

著者の修行時代だとか、他の楽団のトラ(臨時雇のアルバイト楽団員のこと)をやった話とか。
あと、初めて旅行でバイロイトに押しかけて、ワーグナーを聴いた話とか。
いずれも、実に面白くて、興味深い話ばかりである。

 

評価は☆☆。
エッセイとして、格別に面白い。
だいたい、楽器奏者には意外に文才に恵まれた人が多いように思う。
あの中村紘子も、エッセイは上手だった。
畑は違うが、ジャズ・ピアノの山下洋輔もものすごく面白い文章を書いた。
天は二物を与えるのだなあ。

音楽をやった人で羨ましいのは、私らシロウトとは別の深い次元で音楽を鑑賞できることである。こちらがなんとなく聞き流している箇所を「難所」だと知っているから「お、やるな~」「スゲー」となるわけだ。
こればかりは、長年の修行をした人と下手の横好きで聴いているだけの人間との違いで、いかんともし難い。
その著者だが、再生装置については、プロの音楽家によくある話で、ひととおり音が出る程度で妥協していたらしい。
しかし、N響を定年退職してから、タンノイのスピーカーを手に入れたところ、それが素晴らしくて大変なのだそうだ。
やっぱりなあ、そうだろうなあ、タンノイだもんなあ。
私もタンノイは欲しいが、それなりの値段がするので、ちょっと手が出ないのである。
で、同じ英国産ということでKEFを使っている。似たような同軸型というやつである。
国産のスピーカーとは、まったく違う音が出るのだ。
何が違うといって、弦楽四重奏を聴いた時に、ちゃんとビオラの音が聞こえる。国産の虚仮威しスピーカーは、チェロがプロレスラーが弾いているように膨らみ、バイオリンはキーキーいうばかりで、ビオラが消えてしまう。あれはダメである。まあ、最近の流行音楽はハーモニーなんかなくて、打ち込みのドラムがズンズンなるだけだから、あれでも足りるとは思う。
KEFのおかげで、弦楽四重奏が嫌いだったのに、いつの間にかベートーヴェンの全集を買って聞くようになってしまった。

だけど、やっぱりタンノイはいつか欲しいなあ。。。まあ、身分不相応だし、老化で耳が遠くなってから入手するようじゃあ、やめたほうが良いかもしれませんがね。