Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

最後の秘境 東京藝大

「最後の秘境 東京藝大」二宮敦人。副題「天才たちのカオスな日常」

 

上野に東京藝大という大学があるのだが、あるということは知っていても、その実態はまったく知らない。
「最期の秘境」とは大げさだと思ったが、言われて見れば一理ある。
というわけで、タイトルに惹かれて購入。

なるほど、東京藝大はまさに「最後の秘境」というにふさわしい。
まずもって、あの東大以上の難関であるということを知らない人は多いのであるまいか。
一応、ペーパーテストはあるものの、それは「同点のとき悩んだとき用」であって、各学科とも「実技」で入学が決まるのだという。
というわけで、藝大目指して地方から上京し、藝大の教授に師事して入学を狙うくらい「あるある」」なのだそうだ。
しかも、各学科とも、わずか数人の枠しかない。
おそるべし、まさに選ばれしエリートのための大学なのである。

藝大は音校と美校に分かれており、それぞれ音楽と美術をやる。
この二者は明確にカラーが別れているそうで、音校の生徒は正装に近いような服装で、女性ならお嬢様タイプが多いそうだ。
一方の美校は個性的な(笑)格好の者が多く、身なりに構わない人も多いらしい。なんとなく、わかる(笑)

彼らの天才ぶりは本書に詳しくエピソードがあるのであるが、まあ、一般社会からすると「奇人変人」のたぐいだと思えばよい。
しかも、学長みずからが「数年に一人の天才を排出するための学校」と言ってはばからないというのだから、死屍累々は覚悟の上ということになる。
おそるべきことに、卒業生の半分が行方不明になるという。
まあ、音楽家になったり画家になったりして、身を立てることができる者は一握りしかいない、というのは理解できる。
一般企業に入社するものは「負け組」なのだそうだ。「ああ、あいつは諦めたんだな」
で、其他の者は、行方不明になるしかないのである。
なんと、凄まじい世界であることか。


評価は☆☆。
予想以上に面白い。一読して損がないと思う。

 

私は学生時代に、江古田という街に住んでいたのであるが、近くに日大芸術学部(通称ニチゲイ)という大学があった。
この学生は、見るからにアヤシイ人物が多かった。
毎日、ニチゲイの前を通るのだが、なるべく関わりにならないようにしていた(笑)
学祭の時期など、わざわざ遠回りしてアパートに帰ったものである。
魔窟ではないかと思っていた。
この本を読んで、そんな昔を思い出した。

芸術を志す、というのは、思えば魔物に魅入られたようなものかもしれない。
損得ではないのだろうと思う。
それもまた、人間らしい生き方ということでしょうかね。