Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

TOKYO BLACKOUT

「TOKYO BLACKOUT」福田和代。

 

冒頭、山中の鉄塔に向かう保安要員。どういうわけか、鉄塔に異常があるらしく、その確認に向かう。
場所は日本アルプスで、東電に対して北電が電力を送っている系統にあたる。
しかし、この保安要員は、たちまち外国人と思われる何者かによって射殺されてしまうのだ。
さらに、今度は別の鉄塔に爆薬を搭載したヘリコプターが激闘、鉄塔ごと倒壊させてしまう。ヘリの搭乗員はパラシュートで脱出したが、爆発に巻き込まれて一人死亡。
首都圏は、電力供給の大動脈を止められて、ブラックアウト(電力不足による大規模停電)の危機に瀕する。
折しも東電は最新の系統システムを稼働したばかりだった。
政府と東電は緊急会合を行い、東電の前例のない提案「輪番停電」でこの危機を乗り切ろうとする。
ところが、輪番停電を行おうと操作した途端、システムが予期しない停止をする。
どうも、あらかじめ系統システムに不正なコードが埋め込まれていたらしい。
頼みの綱の輪番停電も使えず、東京はブラックアウトする。
病院などの施設は、とりあえず自家発電でつなぐが、燃料が切れの時間がせまる。
停電のため、物流も滞っており、さらに水道がとまるところが各地で発生する。
東電は系統システムの異常の復旧を急ぐが、どうもエンジニアリングサービスの子会社のエンジニアで一人、疑わしい男が浮上した。
彼は孤独な男で、特に家族も持たずに一人暮らしをし、唯一、天体観測が趣味という男であった。
その男は、実は池袋で「都会の無関心」によって起こったある事件の女性被害者の子供だった。
はたして、東京ブラックアウトは解消するのか。。。


たまに「予言書的な内容」と言われるものが現れることがある。
本書はその一つの例である。
この本が上梓されたのは、2008年。
そして、あの2011年、東日本大震災によって、ついに東京は「輪番停電」を実施することになる。
本書発表時点で、誰も知らなかった「非常事態における緊急の大規模停電回避策」だった。
追い詰められた人間の知恵は、作家の想像力と同じ結論を導き出したのである。
ストーリーはこの手の作品としてはありきたりの感じがするのだが、この輪番停電の迫真の描写だけで価値がある。
評価は、敬意を表して☆☆。

このコロナ禍で、巣ごもり需要が増えた結果、東京の電力需要は逼迫している。
本書にもある通り、電気は基本的に貯蔵もできないし、需要が供給を上回るとブラックアウトの危険がある。
電力会社は、細かく需要をチェックして、その変動に合わせて発電量を変えているのだ。
発電量を変えやすいのは主に火力なので、その発電量をそこで変動させる。
ちなみに原発はほぼ発電量を変えられないので、ベース電源という言い方をする。ベースというと聞こえがいい。実は、出力の変動が聞かない、という意味である。
水力もほぼ同様である。
なお、本書にも登場する揚水発電というのが、電力を貯められる例外的な発電所で、原発が動いているときは余った夜間電力でポンプを回して揚水していた。昼間は落水させて発電するわけである。
電力には色がついていないので、どんな電力でも、余っていれば揚水に使えるが、系統が使えるかどうかは別の話である。

 

先日の電力危機のときも東電は他の電力会社から電力の融通を受けたが、日本の場合、この電力会社間の系統連系が弱い。
東西で周波数が違うので、東は西からは電力が受けづらいのだが、同じ東同士でも融通幅は小さい。
これは電力会社に、基本は自分の管内で系統を完結させるという文化が存在するためである。
欧州などは、国をまたいで大規模な融通が行われている。
よくドイツがフランスの原発の電気を買っていると言われるが、実はほぼ同量の電気を逆にベルギーあたりに売っている。
地図を見るとわかるが、地区によってはドイツから系統連系しないでフランスから受けたほうが安い(山越えの苦労がないから)地区がある。
ベルギーも同じ理由である。
ドイツは脱原発を勧めているが「フランスから原発の電気を買っている」と指摘する人が、逆に「同量をベルギーに売っている」と指摘するのを見たことがない。
こんな連中に限って、マスコミの「報道しない自由」を避難したりするのだ。言行不一致も甚だしい。
あまり、他人の言うことを信用してはいけない、という例でありますね。