Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

地球の静止する日

地球の静止する日」ハヤカワSFのアンソロジーである。映画化された短編小説の原作を収めてある。
以下の作品が収録。
「趣味の問題」ブラッドベリ
「ロト」ウォード・ムーア(性本能と原爆戦 原作)
「殺人ブルドーザー」スタージョン
「擬態」ドナルド・A・ウォルハイム(ミミック 原作)
「主人への告別」ハリイ・ベイツ
「月世界征服」ハインライン
「月世界征服撮影始末記」ハインライン(エッセイ)

アンソロジーというのは、空いた時間にちょこちょこと読めて、なかなか楽しい。
つい「小説を読むぞ」というと、長編物をじっくりと、という志向に走りがちなのだが(そして、それはそれで楽しいが)現実には日常生活というのは果てしない雑務をこなさないと維持できないので、その空き時間にちょこちょこと読めるアンソロジーは、本物の読書好きが知っている楽しみ方かもしれないと思う。
で、このアンソロジーは、私のようなSF好きから言えば、全作「ハズレなし」で、実に楽しかった。


「趣味の問題」は、人間が外見に対して持つ偏見の抜き難さを描いた作品。いかに知性と思いやりに溢れた異星人であっても、蜘蛛の形態をしているといかんらしい。
「ロト」は、人間の正常性バイアスと(たとえ原爆が落ちていても、自分の上に落ちるまで人は日常から離れられないことがある)男が妻子を捨てる決意をする理由。
「殺人ブルドーザー」は、私の知る限りトランスフォーマーものの元祖。
「擬態」は、人間以外の生物で擬態はよくあるのだが、もし人間に擬態する生物がいたら、、、という話。
「主人への告別」は、実は主人だったのは、、、という話で、ちょっと星新一的なオチ。
「月世界征服」は、宇宙開発黎明期、実際に多数の命が失われたが、当時まだ未達成だった月面着陸を作家の想像力が実にリアルに描き出しているのに驚き。さすがハインラインとしかいえない。「ハインラインなんて
と馬鹿にしていた時期が私にはあった。誠にすまんことである。土下座してお詫び。

実に楽しい作品集で、大満足の☆☆。

このアンソロジーは、いずれも映画原作ということだが、例によって基本的に映像作品に興味のない私はどれも見ていない。
だが、ちょいと調べてみると「主人への告別」が映画「地球の静止する日」の原作のようである。
なのだが、どうもwikiでみる限り、映画の内容は原作とはかなり異なる。
あの「ブレードランナー」もそうだが、原作の「アンドロイドは電気羊の夢を見るか」とは相当に違う。
原作というのは、あくまで映画のフレームワークを提供するにとどまり、映画と原作はまったく異なる作品だと思ったほうが良いだろう。
映画の「ブレードランナー」と原作の「アンドロイドは電気羊の夢をみるか」は、いずれも名作であるが、それぞれ違った作品だ。
大学生の頃、ブレードランナーを見て、原作至上主義の私は「話が違う」と不満を持ったものである。
つまり、映画を見て「原作を読む代わり」にしようというのは、間違いだという話だろうと思う。

やっぱりSFは面白いな、と思うのであるが、何しろ、最近の作家をキャッチアップしていないので、今の流行がどうなっているのか知らない。
まあ、知らなくてもいいかと思っている。
縁があれば、そのうち読むこともあるだろう。