アシダ音響という会社があることは知っていた。
有名な家電メーカーやオーディオメーカーとは異なるが、音楽制作現場あるいは放送局などのプロ用機器の会社である。
この手の会社はマイクロフォンとかヘッドフォンなどの小物関係に多く、私が知っているだけでも(すでになくなっている会社もあります)エレガ、プリモ、サトレックスなどがあって、バブル時代にはこういうマイナーメーカーも一般消費者向けの製品を出していた。
当時、秋葉原に通うのが趣味だった私は、今はなき石丸電気のヘッドフォン売り場で、こういうマイナー製品をかたっぱしから試聴したもんです。
そういうマイナーメーカーのひとつ、アシダ音響のヘッドフォン、ST90-05という(何の愛想もない型番ですなあ)のが巷間でひそかに話題だと知って、私もオンラインで注文したのである。およそ2ヶ月前か。注文殺到で、小メーカーゆえさばききれず、納期がそれぐらいかかるわけですね。
それが先週末にやってきて、ここのところ毎晩寝る前に聴いているのだけど、なかなか素晴らしいのである。
デザインはいかにもプロ用といった感じでそっけないものですが、軽く、それでいて耳の圧迫感がない。私はすぐに耳が痛くなるほうですが、このヘッドフォンは小さく、耳の穴周辺だけを塞ぐので、まったく痛くない。
そして音質である。
最初は、みかけと同様に「そっけない音」という感じであった。特にバイオリンの艶など、スタックスの繊細さと比べるべくもない。低音の広がりもない。
ところが、ふとパソコンで映画を試聴したら驚いた。人物のセリフがものすごくリアルで、はっきりと聞き取れたからである。なんというか、人間の声にまつわりつく不要な音がない。
ふと思い立ってCDでマーラーの歌曲を聴いてみたら、おそろしくリアル。
やっぱり弦の音などは不満が残りますが、声は抜群。
ニュースの声など、思わず「誰かが話しかけた?」と思ってヘッドフォンをとったら室内は無音でした。つまり、ホンモノの人声と間違えた。そのくらいリアル。
なるほど、これがモニターか、と感心したのである。
これがメーカー直販で、わずか6600円である。
値段がおかしいと思う。
思えば、バブル時代に売っていたヘッドフォンの値段と同じか、ちょっと安いくらい。
日本のデフレを実感する。
とにかく、こんなすごい商品が、わずか6600円で買えるのだから、この国はどこかおかしいのでしょうなあ。
ヘッドフォンをよく使う人は、1台手に入れておいて損はない逸品だと思う。
私は、このヘッドフォン以外は使わなくなった。必ずしも美しくはないが、安心して聞けるからである。