Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

太陽の塔

太陽の塔森見登美彦

日本ファンタジーノベル大賞を受賞した、この著者のデビュー作である。

主人公は京大農学部の学生であるが、休学中である。思うところがあり休学したのであって、経済的その他の事情ではない。
しかしながら、地方出身学生の大多数が(たぶん)そうであるように、非常に貧乏である。
物語は、主人公がふられた水尾さんという彼女のマンションに赴くところから始まる。本人は否定しているが、ストーカー行為である。
ただし、水尾さん本人になにか嫌がらせするとかつきまとうとかはしていない。本人いわく「自主研究」である。
そんなことをしていると、ある男がでてきて、主人公の行動を非難し諫める。
この男の正体を主人公の友人が探ってくれて、その男は遠藤という法学部2回生である。
で、面白いことに、この男は水尾さんと付き合ってはいないのである。つまり、遠藤はストーカーだった。
なので、ストーカーしている主人公が別のストーカー男である遠藤に非難されたということである。
当然に主人公は「オマエに他人のことをとやかく言える資格はない」というので不快に思う。
この二人の間にしずかな戦争が始まる。お互いの部屋のドアノブに水尾さんからのプレゼントに見せかけたゴキブリ入の紙袋をぶら下げておくのである。
ふたりともひっかかった。馬鹿である。
主人公はそんなことをしながら、友人たちと酒を飲んだり、水尾さんの夢の世界を見たりする。
水尾さんはどういうわけか太陽の塔がいたくお気に入りなのである。
夢の中で叡山電車がなぜか太陽の塔まで走っている。
クリスマスイブというふざけた切支丹伴天連の祭りの夜に、もてなくいけてない主人公たちは「ええじゃないか」テロルを仕掛ける。
世の中の恋愛馬鹿騒ぎを嘲笑する目的であった。
この企てはうまくいったようであったが、実はそのあと、主人公は泣く。
ここまでやって、やっと、自分自身の失恋の痛みに気づいたのである。


たしかに、ジャンルといえば「ファンタジー」ではあろう。夢の世界の話とか、でてくるし。
しかし、これは青春小説のようでもあり、また、恋愛小説でもある。
恋愛というのは、その訪れるときよりも、過ぎ去ったあとにそのかたちがわかるものであるからなあ。
テーマは非常に純文学に近いと思う。

評価は☆☆。
相当に面白かった。この人の著作を読んだのは初めてであったが、ちょっと他の作品も読んでみたい。

これが京大在学中のデビュー作ということであるが、たしかにそうだろうなと思わせる。
かなり教養が伺われる、やや時代がかったペダンティックな文体が特徴で、私は好きな部類である。ま、オタクっぽいといえばそうだが。

著者は作家専業になったあと、しばらく完全に休載していたらしいが、今は復帰したらしい。
いろいろと、抱え込みすぎたものであろう。
まったく月並な感想だが、仕事は短距離走よりもマラソンであると考えている。いくら勢いがあっても、たちまち息切れしては成し遂げることができない。
息がちゃんと続くペースで続けることが大事である、、、が、若いときはそうもいかんのだなあ。
結構無茶をやった。それもわかる。

私ぐらいの年齢になると、もう無茶をしたくてもできない(笑)
であるから、若いときは無茶をしてみてもいいかもしれないな、とは思う。
しかし、心身を損なうまではやってはいけない。
あとになっても、なかなか治らない場合もあるのである。その限度は自分ではわからないんだけどね。