Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

宇宙は本当にひとつなのか

「宇宙は本当にひとつなのか」副題は「最新宇宙論入門」村山斉。講談社ブルーバックス

 

たまに、宇宙論の本を読むのだが、いわゆる量子力学という「これ以上小さくできないミクロの世界」と、相対論という「巨大天体とか空間の世界」という対象的な世界が「同じ物理学」なのになぜか相性が悪くて、いわゆる統一理論(万物理論)を考えていくと宇宙論に突き当たるという、どうにも知的好奇心を刺激せずにはおかない構造を持っているからであろうと思う。世界は不思議に満ちているのだが、その不思議の追求は、すでにしてSF小説の想像を超えた事態になりつつある、、、というのが実感だ。

ただ、量子論から宇宙論までを一気通貫する解説書というのは、門外漢にとっては読みづらい。読みづらい理由は簡単で、量子論から話をスタートすると、どうしても説明に数式を使わねばならないところが出てきて、数学の(それもリーマン幾何学とか)心得がない人間にとっては書いてあることの「ぼんやりとした輪郭の理解」すらおぼつかないから、である。

その点、本書はすごくわかりやすい。話の起点が「宇宙の観測」から始まるからで、それなら素人であっても、割合に理解しやすいからである。

 

現在の宇宙論の中心は、いわゆる暗黒物質ダークマター)になっているのだが、なぜダークマターが大問題なのか、という話が平易に説明されている。ダークマターがないと、今の宇宙は存在できないのだが、しかし、その肝心のダークマターはおそらく我々の周囲にも存在するはずなのに、まったく観察できない。他の力(電磁気力)とはまったく干渉しないのに、重力だけはある「物質」ということになる。さらに、この重力が他の3つの力(電磁気力、強い力、弱い力)に比べて格段に小さいのはなぜか?ひょっとすると、重力だけが我々の住んでいる世界(3次元+時間)を超えて、他の次元に「染み出している」ため、ではないか。そうすると、他の次元とは何か?

ついには「多次元宇宙」と「多元宇宙」の違いに至る、、、という話である。壮大としか言うまでもなく、さらに、現在の物理学でまだまだ説明できないことが何なのか?という平易な解説になっている。「ダークマター」が話題の中心になっているのは、実はダークマターが一番解明に近そうだから、、、であって、もっとたくさんあるダークエネルギーとか、あるいは重力を与えるグラビトンと質量を与えるヒッグス粒子の関係など、不明の事項はまだまだ多い、、、というか、そのへんは「ほぼ不明」なのである。「科学的に、すべてが説明可能」というのは素人の考えであって、プロは「何がわからないか」を理解しているものなんだなあ、、、と感じる。素人でも一番だめなやつは「全部わからないことばかり」と思っているやつで、実は相当程度は分かっているのである。素人が考える「わからない」と、プロが考えれる「わからない」は、まったく違うのだ。その違いを、一通り理解することができる。

 

評価は☆☆☆。ブルーバックス宇宙論の本の中で、もっとも平易に理解しやすいから。

 

本書の中で「あと10年以内に、ダークマターの謎も解明されると期待される」と書いてあるが、実はいまだに解明されていない。ヒッグス粒子は発見されたが(まだ検証は続いているが)その他はまだである。

私の寿命が尽きるまでに、万物理論が完成するかどうか、かなり怪しい情勢になってきた。超ひも理論は有力だというが、解が無数にあるという状態をどう評価したらいいのか。やっぱり宇宙も無数にある、と考えるべきなのか。

神ならぬ身の知るよしもなし、とは、こういうことかとため息が出るのである。