Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

遺跡の声

「遺跡の声」堀晃。

名作トリニティシリーズがついに文庫化。まとまって読めるのは有り難い。
大学時代にかなり夢中になって読んだ作品達が懐かしい。

主人公は宇宙遺跡の「下級調査員」という設定であり、銀河の辺境の星でついに宇宙進出できなかった種族の遺跡の発掘調査に従事している。
これは、銀河における炭素の集積度と関係があって、つまり銀河系中心部に近いほど炭素密度が濃くなるので、高等生物が発生しやすい。その上、星間距離も短い。だから、宇宙に進出する文明に到達しやすいことになる。
逆に、辺境の惑星では、文明自体が星間移動できるレベルに到達する可能性が低いわけである。
そういう辺境の惑星を中心に調査をするので「下級調査員」というのが主人公の役どころである。探査船に乗って、辺境の惑星を巡っている。

この主人公がトリニティという名前の相棒を得るのが第一話である。大きな離心運動をする惑星で主人公が見つけた生物は、体がシリコン結晶であり、その上をフッ素のコートが覆っているという構造だった。
700年に一度の最大離心距離のとき、彼らは脱皮して1歳としをとる。その太陽系の太陽が大型フレアを吐き出し、惑星を焼き尽くすのだが、たまたまこの星に調査に訪れていた主人公はこの生物を間一髪で助け出す。
それ以来、主人公はこのトリニティという名前のシリコン結晶の固まりと一緒に発掘旅行をするようになる。
シリコン結晶のトリニティは、たいへん大きな情報処理能力をもっており、主人公と言葉を交わす能力すらあるのだ。

評価は☆☆。日本SF史上に残る名作。

最終話で、トリニティはさらに大きな、先史人類の残した人工頭脳と融合して消える。そのとき、その遺跡が出した質問は「フェルマーの定理」だった。
20年前に「超難問」の代名詞だったこの予想も、1994年にワイルズによって証明されている。私の数学の力では、この証明を理解することができないのが残念だ。
今度、入門の入門本(苦笑)を読んでみようかと思う。
それでも、理解できる自信はゼロなんだけどね。

しかし、17世紀に考えられた証明問題がついに20世紀に解けるなんて、数学は実にロマンに満ちた学問なんだなあ、と思う。

SFは好きなのだが、SFに未来予想を求めるのは、なんだかしっくりこない。「役に立つSF」なんて、なんだかヘンだ。
じゃあ「思弁小説」は?と思うと、それも「ううん。。。」と思うようになった。思弁を他人に表現する、ということが、なんとなく疎ましく思うようになったからである。
なんとなく、読んでいると面白い、それでいいじゃないの、と思うようになった。
早い話、年をとって日和ったのだ。

昔読んだ小説が、今読んでも面白いのは、こっちが進歩していないのか、それとも作品が素晴らしいのか。
どっちでもいいんだけど。