Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

選挙参謀

選挙参謀」関口哲平。

主人公の遊馬はいわゆる「選挙参謀」である。ふつうの定職を持たず、日本全国の選挙区を「勝たせる」を売り言葉に渡り歩く浮草稼業である。
しかし、政治家も落ちればタダの人。必死だから、それなりの成功報酬を用意してすがりつくわけである。
その遊馬が、全国で大きく注目された都知事選挙大前研一候補陣営で手ひどく敗北して、再起の一戦が神奈川県の一都市における首長選挙だった。
この手の選挙は現職優勢がまず普通である。事実、当初は中間派の市議も含めて、市議会議員の2/3以上を固めて、まず安泰だろうと思われた。
ところが、相手はクリーンを旗印にしたイケメン市議。それに引き換え、こちらの候補は、現職時代にさしたる業績も上げられず、年齢的にも下り坂で、意気は上がらない。
勝てないと見たとたんに、中間派の議員たちは雪崩をうって相手陣営に走り始める。つい最近、引退した革新陣営側の元国会議員が、さかんに「切り崩し工作」を行っているのである。
現職側は、地元業者からとにかく金を集めて、地域の顔役どもにばらまき、必死の防戦を行う。選対に選ばれた保守系市議が、懸命に工作を続けているのである。
しかし、それでも思うように支持率は上がらない。
極秘で行った支持率調査では、大差をつけられて負けている。
そのデータを真逆に「勝っている、心配するな」と自陣営には「大本営発表」するものの、選対の市議はすでに資金を自分の懐に確保するほうを優先させ始めた。このまま、沈没船に踏みとどまれば、次の自分の選挙も危なくなるからである。
選挙参謀の遊馬は、そこで逆転の秘策を出す。
付き合っている銀座の女をつかって、相手陣営の候補者の弟を篭絡にかかったのである。
遊馬が描いた「ハニー・トラップ」は、候補者の身内を公職選挙法違反の「連座制」でひっかけて、再選挙に持ち込むという離れ業であった。
周囲をあっといわせる遊馬の秘策は、果たして成功するか?


選挙の入門書として、非常に有用であり、かつ、選挙戦の実態がリアルに描かれている。なかなか、類をみない書物といってよい。このあたり、著者の実体験が生きているといえる。
ストーリーも、十分によく練られていて、読みごたえは充分だ。
評価は☆☆である。

本書に描かれるとおり、選挙というのは、実は政策論での戦いではなく、まずは公職選挙法との戦いである。
公職選挙法によれば、告示前に「選挙活動」をしてはならない。
そこで、後援会が活躍するのである。つまりは、候補者本人が行う選挙活動ではない、というわけだ。
したがって、新人であれば「○○君を励ます会」現職であれば「国政報告会」が、選挙前に行われるわけである。
励ますのは自由だから、選挙活動ではないし、現職議員が議場の話題を選挙民に「報告」するのは選挙活動ではない、という理屈なのである。
こうして、公職選挙法に禁止されている「事前選挙活動」が、公然と行われる、というわけだ。
もちろん、選挙活動にならないように、ポスターやたすきの使用については、詳細なルールがある。これを「知りませんでした」だと、即アウト。
つまり、素人が「草の根選挙活動」を告示前にやれば、たちまち御用、犯罪者である。政治は素人のものでなく、一部のプロの戦いなのだ。
憲法に「民主主義」を掲げる国の選挙の実態は、まあ、そんなところなのである。

よって、本書に指摘されているように、議員はすべて「法律違反」をした者達、ということになる。巧みに、言い訳を設けて、網の目をくぐってきたわけだ。
その人たちが、つまるところ「国民の代表」として、法律を作っている、というのがこの国の立法機関ということである。

前回か、前々回選挙あたりから「不正投票疑惑」が都市伝説的に語られているようだ。
一部の投票所で、大掛かりな投票の「すり替え」が行われている、というものである。
ただ、私は、実際には「単なる選管の不手際」を除いて、意図的な不正は行われていないと思う。
朝一番の投票に行けば、誰でも最初の投票箱の設置には立ち会えるし、開票作業も、選管で対立陣営も含めて、互いに監視しながら行われているのである。もちろん、うっかり八兵衛がいないとは限らないのであるが、大規模かつ意図的な不正は不可能であろう。
何より、私がそう感じるのは、事前の支持率調査の数字をナマで見る立場にいるためである。
選挙不正を叫ぶ極右候補者の事前支持率の数字は、ヒトケタの前半の、そのまた半分以下である。はっきり言うが、受かるわけねーじゃん(笑)。
そして、それには理由があって、つまり「与党(自民党)+態度未定(浮動票)」が過半数で6割くらいとなり(だいたい与党が30%弱、浮動票が30%半ば)残りの30数パーセントをその他の野党が分け合う。
野党トップでそのうちの半分、共産党が一ケタ、その他もろもろで、その他もろもろの中に「現職のいないインディーズ政党」が入る構造が、すべての選挙区でほぼ同様だからである。インディーズ候補とは、極右や新興宗教系、あとは自由業のおかしなおじさん達を指すと思えばよい。
真面目にこういう人たちが議席を欲しいと思ったら、まず市議会で議席をとり、仲間を増やして、地盤を固めるしかないのである。
特に国会議員は自前の部隊を持たないから、市議が何人、自陣営に加勢するかで、ほぼ基礎票が決まってしまう。
ついでに言えば、浮動票の落ち着き先は、最終的には基礎票の割れる通りの比率で割れる。浮動票頼みのインディーズ候補は、インディーズのままで、浮上することはないのである。選挙民の良識ということですな。

こういう構造をきちんと調べて「国盗り」を行うとすると、まず地方議会で圧倒的に強くなることが先決だとわかる。
「おおさか維新の会」の戦略が正しいゆえんである。
他の地域では支持率1%以下だが、大阪では断トツだから、必ず議員を送り込めるわけだ。

結論から言えば、市議も出せないくせに、国政に打って出るような連中は、参院議員の有名人枠を除ば、酒によって大言壮語する「浪人右翼」とか「誇大妄想」とかと同レベルなのだ。
そういう人は、ちゃんと受からないようになっているのである。

選挙業界の片隅に身を置く人間として、まずは、本書あたりをお勧めしたい。
そのうえで、どうしても出馬したい方は、どうか、私宛にご連絡をください。ええ、もちろん、ブログ読者割引で、お安くしておきますよ(笑)