Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

低欲望社会

「低欲望社会」大前研一

社会人になって最初に就職した会社がコンサル会社だったので、まず大前氏の「企業参謀」を読まされた。
問題解決技法、というものを初めて知り、使うことになったわけである。
あとになって、この「問題解決技法」そのものが一種の知的バイアスであることに気づくのだが、私が就職した80年代においては鋭い切れ味を持つツールであった。
この著者の論点整理の明快さには驚いたものである。
(実は、明快に整理されるファクタを選んでいるのであるが)

さて、本書は2015年に上梓された著書であるが、現在の日本をもっとも鋭く分析した本であると思う。
この日本という国は、誠に不思議な国である。
なにしろGDPの2.5倍という恐るべき額の公的債務がある。
しかも、少子高齢化が進んでおり、この借金の担い手はこれから細っていくばかりなのである。
さらに、この20年間、まったく経済成長していない。
そして、極めつけはこの国の国民が持つ個人資産は1800兆円という空前絶後の額なのである。
ありあまるお金がありながら、銀行預けるだけでまったく使わない国民と、そのお金がじゃぶじゃぶにあっても全く融資先のない銀行が仕方がないので国債を買いまくり、その国債をさらに日銀が買い上げる。
余計にお金がじゃぶじゃぶにあっても誰も借り手がないので日銀にブタ積みして、ついには日銀にマイナス金利という名の保管料を取られる始末。
それでも金は動かず、よってインフレも起こさず、つまりは円も暴落しない。
アメリカからはMMT(現代貨幣理論=政府はいくら借金しても破綻しない)のサンプル扱いされる始末である。

大前氏は、この現象の原因を「1800兆円の個人資産が動かないから」だと診断し、その原因を人々の「低欲望社会」にある、と結論付ける。
日本のGDPの6割が内需なので、たしかに個人資産が動けば景気は回復する。
では、金があるのになぜ使わないのか?
大前氏は、それを「将来不安のため」だという。
将来が不安であれば、それに備えなくてはならない。ならば、金を使うよりは使わないほうが良い。
運用すれば、もちろん増えるチャンスがあるがリスクも有る。それならば、銀行預金のほうが安全である。
つまりはリスク回避の行動の積み重ねがこのような形をとるのだ、というわけだ。

そして、このままでは国債の暴落=円の暴落は避けがたく、これを回避する方法は3つしかないだろうと言う。
1)歳出を4割減らす(おそらく社会保障をやめることを意味する)
2)消費税を20%にする
3)戦争
このままでは、日本は「茹でガエル」のまま衰亡するほかない、と説く。


なるほどねえ。
コンサルらしい分析と解決技法の提示だと思う。明快である。
評価は☆。
納得感がある。

これだけ非正規雇用が増えて賃金も国際比較で低いままなので、現役の稼ぐ世代は本当に金を使えないのだと思う。
貧乏なのであるから、金を使いようがない。
だから、金を持っている高齢者に金を使わせないといけない。
では、なぜ使わないのか。
話は単純で、将来いくら金がかかるか、わからないからである。
病気をするかもしれない、介護を受けるかもしれない。しかし、今の医療も介護も「地獄の沙汰も金次第」なのである。
良い施設で良い介護を受けようと思ったら金が必要である。
いつそうなって、いくらかかるかわからない以上、金は必要であって、いくらかかるかわからない。
であれば話は簡単で「いくらかかるかわからない」を排除すればよいのではないか。
つまり、一定年齢以上になったら(たとえば85でも90でもいい、100でもいいし)「一切の金はかかりません」の制度にする。
無一文でけっこう、それで全部国が面倒見ます、全財産は相続してください、というわけだ。
これは「人工的な死」と言ってもいい。例えが悪いか。
しかし、である。将来不安の原因はといえば、突き詰めれば「いつまで生きるかわからない、いつ死ぬかわからない」ところに尽きるではないか。
だから、いっそ人工的に、ある年齢に達したらそこでゲームオーバー、もう資本主義ゲームの外でいいですよ、という仕組みが有効なのではないかと思うのである。
いつゲームオーバーになるかわかれば、そのときまでに全財産を使っても良いわけだから。

こんな政策を訴えている政党は、ないんだよなあ。