Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

養老孟司「いちばん大事なこと」VS池田清彦「環境問題のウソ」

この2冊の対比は「環境問題」に関する人のスタンスのあり方を示して興味深い。
そしてたぶん、池田清彦氏の著作は、養老氏を相当意識したものだ。

養老氏は、環境問題を「いちばん大事なこと」だと言っている。そのままタイトル。
養老氏の「唯脳論」の立場で言うと、脳は基本的に「脳に都合が良い」仕組みを考えてしまう。その典型が都市。都市の対語は自然であり、脳の対語が身体であるから、身体=自然、となる。現実に、我々の身体の内部には腸内細菌をはじめ様々な生物が生息しており、もしも我々がおだぶつになって火葬されてしまうと「一億玉砕」となる(笑)。我々の脳は、一年前の自分と今の自分が「同じ」だと認識するが、現実に物質レベルでみると、細胞の新陳代謝によって95%は入れ替わっているので「他人」と言った方が正しい。脳は、自分の身体についてはウソをつく。
ところで、脳の特性として「ああすれば、、、こうなる」という「原因-結果」の脈絡で物事を理解しようとするクセがある(そうしたほうが脳には都合がよい)だから、人間が考え出した理論で、自然を考えることは極めて危険な側面がある。自然は、多くのファクタが複雑系としてからむもので、脳に都合が良く自然ができているわけはない。従って、自然保護については、人間の判断は常に誤る可能性がある。
では、どうすれば良いか。養老氏は、日本固有の「里山」の例を取り上げ、「最小限度の人間の介入によって、人間と自然が共生する(対立しない支配しない)あり方」を説く。

一方、池田清彦氏は、環境保護原理主義」を鋭く批判する。
アメリカが京都議定書に同意しないのも無理はない、co2が地球温暖化の原因であるとは特定できないし、仮に京都議定書のとおりに規制しても大した効果は期待できないとする。
ダイオキシン騒動についても批判的で、ダイオキシン=「史上最悪の毒物」であるというのは真っ赤なウソ、いったい何人がダイオキシンで死んだのか、そもそも山火事でもダイオキシンは発生するじゃないかと言うのだ。
ブラックバス騒動についても、外来植物や動物が入ってくるのが「自然」な状態である、特定の動植物を駆除するのは優性思想「ナチズム」だと批判する。それは、環境保護によって駆除費用をせしめる商策だと批判する。
そもそも人間は回復可能な範囲であれば、自然に介入し利用する権利があるのだ、と池田氏は言うのである。それを無理に規制することは、結局法外なコストがかかって利得がないのだと主張する。

池田氏ブラックバスに関する章を読むと、ブラックバス駆除業者が駆除利権を確保するための騒ぎだとしているが、一方でブラックバスの潤う釣り産業に関しては無批判である。金儲けを批判するなら、両者とも批判されてしかるべきであろう。

養老氏と池田氏の違いは、環境問題における左右対立、ハッキリ言えばイデオロギーの対立なのである。
池田氏は基本的に「人間が特別な生物であり、人間の自然に対する支配」を容認する。根本的に「人間対自然」という弁証法的対立による理解があるという点で、池田氏は左派なのである。必然的に、池田氏は「人民による」自然への介入を容認する。ブラックバスにしろco2にしろ、人民によらないと見ているから批判の対象にしているのである。
養老氏は、そもそも「人間が特別であるというのは、人間の意識が都合良く解釈した結果」だと言う。「人間対自然」という理解のフレームワークそのものが、実は人間の脳のクセとして、そのように考えると理解しやすいだけの話だという。しかし、人間が自然に介入すること自体を全否定しない。ただ、人間が自然を「理解できる」という前提が間違っているかもしれない、だから自然への介入を最小限度にとどめて共生する「手入れ」の思想をとる。これは、日本古来の方法論による自然へのアプローチであって、池田氏大陸法的理解とはいちじるしくスタンスが異なるのである。

もしも池田氏の論に忠実に進むなら、そもそも「環境保護」そのものが不用な運動であるという結論になる。ただ、自然のシステムの「回復度」を斟酌するにすぎない、となるのだ。
自然を人類が支配できる(破壊=改変できるから環境問題だ)という前提である。

しかし、解剖学者である養老氏は言う。ものを壊すのとつくるのは同じでない。ある生物を解剖して「分かった」といっても作れぬではないか。とすれば、分かったと言えるだろうか。環境を破壊できるから我々が環境を支配できると考えるのはおかしい、と。

私の考えは養老氏に近い。
仮に池田氏の言うように、環境保護が「愚行」であるとしても、人間には愚行をする自由もあるであろう。そのために余計な金が使われても、それが「産業」になるなら、従来の「環境を壊す」だけの産業とはだいぶ異なる。それはそれでいいじゃないか。

で、勝手に評価しちゃおう。
養老孟司「いちばん大事なこと」☆☆☆
池田清彦「環境問題のウソ」☆
もちろん、ヘンテコな「保守」に近しい私の感想だから、アテにはならない。
機会が有れば、2冊併読は面白いと思う。