Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

小さな政府を問い直す

「小さな政府を問い直す」岩田規久男

話題の書のようである。「ようである」というのは変な言い方だけど、私はマクロ経済学には全く門外漢であるので「どこが話題になる部分か」判断できんのであるよ。悲しいことに。
それはともかく読了して。「簡単に読めるけど、よく考えると難しい」というのは素直な感想でありますなあ。

本書では、まず戦後日本の大きな変換点が田中内閣による「社会主義革命」だったことを指摘する。
いわゆる「日本列島改造論」は、地方の社会資本整備を重点的に行って、都市と地方の格差を埋めるという目標があった。それに基づいて、公共事業がどんどん肥大化。そういえば、今話題のガソリン税も、田中角栄議員立法であるよなあ。
地方の知事さんとかが「暫定税率復活」で気勢をあげるのは、つまり「地方と都市の格差を是正しろ」という意見の表明だと解釈すれば、わからぬではないだろう。まあ、有効性の問題を度外視して、の話であるけれど。

で、おかげで「土建国家」となった日本は、70年代のオイルショックやら、老人医療費の無料化やら福祉政策の充実やらで、どんどん政府の財政が巨大化。で、こりゃいかん、というので、80年代から「小さな政府」へと改革を始めるようになる。
中曽根行革、橋本行革、小泉改革

国外を見ると、英国はかつて「ゆりかごから墓場まで」のキャッチフレーズで一大福祉大国だったが、やっぱり財政状況が悪化。で「鉄の女」サッチャーが、「小さな政府」への改革を行い、なんとか英国病を克服、財政再建
以後は労働党政権に移ったりして、多少の揺れはあるけれども、基本は小さな政府である。
一方、大きな政府の旗手(笑)スウェーデンだが、やっぱり財政状況が悪化。改革を行って、ちょっと小さな政府にした。それでも、まだまだ大きな政府である。
スウェーデンと英国に共通しているのは、大きな政府にすると経済成長率鈍化し、その結果財源不足に陥る、ということである。いずれも「小さな政府」にしたところ、成長率を回復した。

著者は、日本の財政悪化と低成長率を「大きな政府のもとで、成長性が高い都市への人口や資本の集中が起こらなかったため」だと指摘。小さな政府で再建すべきだと考えているようだ。
格差問題に関しては、「小泉改革が行ったことの悪」という世論に疑問を投げかけ、むしろ「小泉改革が行わなかったこと」が原因だとする。

評価は☆。私のようにマクロ経済学の知識がないものにも分かるように書いてあるのは有り難い。ただし、日本の事例については、まだ時間不足で検証不可能なことも多いような気がした。

本書の中で「足による投票」という言葉がある。
人は、政策について選挙で投票するだけでなく、好ましいと思う政策を取っている地域に引っ越す、というもの。最近の例では、夕張市などが財政破綻した後に、人口が減っているのもマイナスの「足による投票」だということができる。
足による投票の結果、その地域の票数自体が増えることになるので、そういう意思が積み重なっていけば、国家を左右することになる。
もちろん、そのためには「1票の格差」が小さいことが前提である。最高裁でも、たびたび違憲判決が出ている。

私は思うのだが、憲法違反を問題にするのであれば、9条問題だの表現の自由だのよりも、まずこの方が問題だと思うのだがなあ。だって、都市に住む人の1票の権利が、地方の1/5なんて、とんでもない話じゃないのかなあ。
「人間は法の下に平等である」という原則がそもそも反映されなくて、そこで「格差ありまくり状態」で選ばれた議員が「格差問題」の議論をする。
なんじゃそりゃ、などと思ってしまうのだった(笑)