Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

夜より暗き闇

「夜より暗き闇」マイクル・コナリー

ディック・フランシスが亡くなってしまい、ついに大物ミステリ作家はコナリーだけになってしまったと思う。
T・H・クックなんかも健筆ですが、彼の作品はなんとなくミステリの範疇に入らないように思うんだね。
コナリー目指して、亜流新人がたくさん出てきているけど、やっぱり本家は格別である。

この「夜より暗き闇」は、コナリーの代表作ボッシュ・シリーズの外伝的な作品である。
ボッシュというロス市警の刑事を主人公にした連作長編だが、このボッシュ刑事がいいのだ。不遇な少年時代の出生とか母親との確執とかを抱え込んでいて、一言でいえば暗い。
ハードボイルドの主人公は暗くなくちゃいけない。明るい伊達邦彦なんかあるもんか(だから、大藪晴彦の後期の作品はつまらない)
ハードボイルドのテーマは「傷ついた男の再生物語」なのだ。傷ついた男が明るいわけがないのだよ。

この小説は、冒頭に、ボッシュがトラ箱を訪れる。そして、そこで青息吐息の男に、ある事件について白状しろと言う。
男は、弁護士がこなければ何もしゃべらないと答える。そこでボッシュは言う「じゃあ、俺がしてやれることは何もないな」
この一言が、後で実に深い伏線になっているのである。
時は2000年、まさにミレニアムニューイヤー。そして、この時に「ミレニアム殺人」が頻発した。
そのうちの1件、ある塗装工殺人事件について、元FBI捜査官テリー・マッケイレブのもとに元同僚が相談にくる。
マッケイレブは、その事件のプロファイルを引き受けるのだが、考察を進めるうち、この事件はシリアルキラー(連続殺人魔)の仕業ではないか、と疑うようになる。
そして、その犯人は、こともあろうにボッシュ刑事その人なのではないか?とマッケイレブは疑うようになる。
一方、ボッシュ刑事は、ある殺人事件の裁判に証人として出廷している。
ハリウッドを舞台にした、有名プロデューサーの女優殺人事件である。
その弁護人は、反対尋問を積極的にしようとはしない。彼は、ある情報を握っていた。
つまり、ボッシュ刑事は殺人犯だという情報である。殺人犯の刑事の証言など、信頼性があるわけがない。

追い詰められたボッシュは、マッケイレブと直接対決する。そして、自分が殺人犯ではないと主張し、その証拠がある筈だという。
マッケイレブは、自分のプロファイリングには自信をもっていたが、しかしボッシュの主張も真実だと感じる。
そして、確かにボッシュ無実の証拠、真犯人を割り出す重要な証拠を発見する。
この証拠は、ボッシュが出廷している女優殺人事件とからみ、被告に重大な司法取引を迫ることになるのである。

評価は☆。
なんといってもコナリーである。面白い。
考え抜かれた緻密な物語の構成、魅力的な登場人物の情景、気の利いたセリフ。すべてが完璧、練達の職人の技である。
こんなコナリーなのだが、日本での評価はやや低い。
巨匠的なところがなくて、どっちかというと職人的だからだろう。
アーティストではなくてアルチザン。

しかし、期待したとおりの商品を出してくれる「プロ」が、今いったい何人いるだろうか?
たまに大ヒット、あとはメタメタではプロとしてはダメだろうと思う。
そういう意味で、コナリーは安定感抜群だ。「カネ返せ」がない。
シリーズものであっても、途中から読んでも、まったく違和感なく、面白い物語の世界に入っていくことができるところもすごいものだ。
日本だと、大沢在昌の「新宿鮫」シリーズが、初期にはそのような質の高さを持っていたが、、、最近は、ちと。。。ううむ。

ともあれ、悲哀漂う刑事物。ゼッタイ間違いナシのコナリー先生、本屋で「マイクル・コナリー」を見かけたら買い、なのであります。