Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

エデン

「エデン」近藤史恵

自転車ロードレース小説として有名な「サクリファイス」の続編。
主人公の白石は、唯一の日本人ロードレーサーとしてツール・ド・フランスに参加する。
チームは、スポンサーの撤退という大問題に直面していた。
監督のマルセルは、ロードレース人気を盛り上げるために、フランス人の有望新人選手をアシストするように言う。
ロードレースでは、自チームに有利な展開を作り出すために、他チームの選手をアシストする場合もある。
しかし、自チームのエースでなく他チームのエースを勝たせるアシストをするのは、やはり異常である。
白石は、監督の指示通りにして、来年以降もツールに出たいという気持ちと、エースをアシストするべきだというレーサーとしての義務の中で迷う。
しかし、彼は結局、忠実なレーサーであることを選択するのである。

そんなとき、スペインに入って、白石にはじめて売人が近づいてくる。
彼らが売っているのはEPOと呼ばれる、赤血球を増やす薬である。
断ると、他のやつも使っている、と売人は言い捨てて去る。
そのうち、ある噂が立ち始める。
監督のマルセルがアシストするよう指示したフランス人レーサーが、薬を使っているというのである。

やがてレースは、最終の山登り、ラルプ・デュエズに近づいてくる。
そこで、ついに真相が明らかになる悲しい事件が発生した。。。


続編ということもあるのだろうが、純然たる「自転車ロードレース小説」である。
著者は、この新しい分野を切り開いた。
自動車でいえば、高斎正みたいなもんである。パイオニアは、いつだって相応の賞賛を受けるのだ。
評価は☆である。

そういうわけだから、この小説は自転車好きには最高である。
逆にいえば、自転車ロードレースのことを何も知らない人にとっては、少々厳しいのではないかと思う。
たしかに、ロードレースに関する解説は作中にもあるのだが、あまりに簡単なので、これを読んでもピンと来ないだろうと思うのである。
好きな人にとってはたまらんわけで、昨今の活字の本というものは、よほどの好き者でないと買わなくなっているので、これでいいんだろうな。
昔のように、電車の中で本を読む人も減った。
ふと見ると、スマホでゲームばかりしてやがる。バカ製造機じゃないかと思うのだが。
まあ、暇つぶしにやるのはわかるが、あっちもこっちもゲームなんて、どうなんだろうか。


ところで。
本書で取り上げられている自転車選手のドーピング問題だが、かなり深刻である。
かつての名選手が、ことごとくドーピングであった。
あのツール7連覇のランス・アームストロングでさえ、そうだったと告白した。衝撃であった。
かの「海賊」マルコ・パンターニも、ドーピングがきっかけで選手生命を失ったも同然だった。最後は自ら死を選んだ。

私は自転車が好きで、自転車ロードレースの選手を尊敬している。
その彼らが、ドーピングで滅びるところを、見たくないのである。
プロだから、なんとか勝ちたいのだろうが、そのために転落していく人を見るのはつらい。
なかなか勝てなくてもいいから、長く元気に走るところを見せてほしいというのは、外野のファンのわがままなんでしょうかねえ。
何も命を縮めることはない、と思うんですよ、ほんとに。