Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

ダイスをころがせ!

「ダイスをころがせ!」真保裕一。綿密な取材能力に定評がある作者の「選挙もの」小説である。

選挙小説というと、ついつい「実弾」手配だの、某宗教団体との話し合いだの、いろいろと暗黒面を思い浮かべがちであるけど、この小説はそうではない。
一般の市民が、無党派で、国政選挙に立候補したらどうなるか?というストーリーを、あくまでリアルに描く。候補者は、「市民の手に政治を取り戻したい」と願う元新聞記者の男。
主人公は、候補者の高校時代の恋敵で、元商社マン、ともに34才「まだ、ギリギリやり直せる」年代の男達である。この主人公が、妻子を東京においたまま、秘書として選挙戦に挑んでいくのだ。
リストラされて、妻子と別居しながら地元で無所属新人の候補者の選挙を手伝う。当然、離婚寸前である。

小説の中では、現在の選挙制度の不備も指摘される。
無所属だと、政党助成金も出ないし、テレビ放送だって政見放送はできない。経歴放送がながれるだけだ。政治献金も、政党には制限がない。国民の税金を使っているのは、企業献金をなくすためだったはずだが、実際には血税を投入し、無所属での被選挙権を事実上難しいものにしただけだ、と。

このような現状に対して、候補者はこう言う。「それは、国民が、どうせ選挙なんかやったって、政治は変わりゃしない、どうせ無駄だと思っているからなんだ。政治は、我々が持っている一票を行使することでしか変わり様はないんだ、まずダイスをころがせ!」と。
どんな目が出るのか、どうせいい目がでるわけない、と言わないで。まずその手の中のダイスをころがしてみろ!というのである。

この小説は、別にメッセージ小説ではない。
しかし、もし、あなたが立候補したら。。。あるいは、あなたの友人が立候補したら。。。そのとき、どんな問題が起きるか?を克明に小説に書いた作品である。

選挙に投票に行かない人たちが、いつの選挙でも沢山いる。
そんなものに行くより、デートやドライブ、旅行レジャーに行った方が楽しい。なぁに、政治家なんて、誰に投票したって、変わりゃしないんだからさ。

その結果。。。我々は、まさに我々にふさわしい政治家をもつようになったのである。
今の政治家がダメだとしたら、彼らを政治家にしたのは我々有権者なのである。

評価は難しいけど、☆☆かなぁ。
素直に小説として面白いし、抜群の取材力が光る。
選挙だの政治だの面白くない人でも、充分楽しめる。
特定のイデオロギーを支持しない内容も良いと思う。そういう意味で、決して啓蒙小説なんかじゃないところも良いと思う。
ただし、すごい小説、ではない。たぶん、現在の政治小説って、それで良いのだ。