Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

神隠し

親しい自転車仲間の愛車が無くなった。
はっきり言えば、盗まれたのである。

神田まで走って、のどが渇いたので自動販売機の前のガードレールにひょいと立てかけて飲料を買った。さて、と思って振り向いたら、すでに愛車の姿は無かったのだという。

彼の愛車は、オールカーボンフレームの超軽量なマウンテンバイクで、40万円以上する。
「なんて奴だ!」と私が憤ると、彼は「いや、身替わりだから」と言うのである。
「?」
意味を問うと
「いや、これはきっと、近々あの自転車で事故を起こすことになっていたのだ。だから、自転車がなくなったので、事故に遭わなくて済んだ。これから、ちょっとおとなしくしよう」というのだ。

なんという考え方だろう!彼は、先祖代々大塚に住んでいる、正真正銘の江戸っ子なのである。

「ほら、昔の人はよく『神隠し』にあったとか言うでしょ。そういってれば、人を疑わなくて済む、自分も汚れなくて済むから。そう思って、盗難届も出してない」
いや、参った。これぞ江戸っ子ではないか。

真の自転車乗りの心意気とはかくのごとし。

最近、ちょっと自転車ブームだからといって、夜間無灯火で車道を逆走しているような不心得者どももいるが、あのような者どもは、我ら「正統派サイクリスト」の仲間にあらず。

そういう彼に、私は思わず言ったものである。
「そうだ、きっと新しいロードを買えってお告げじゃないの?」
彼は、次はロードレーサーが欲しいと言っていたのを思い出したのだ。
「ああ、そうだね。しばらくおとなしくしながら、また考えるよ」
彼も笑いながら応えた。

一説には、傘もママチャリも一緒だ、自転車なんぞ共有で充分だと唱える議員先生もいるらしい。
彼が、自分で自転車に乗ることはなく、クラウンの後部座席にそっくりかえっているだけだろうよ。
そういう言説を先取りした若者が「自主的に自転車を共有」するようになったのかもしれんなぁ。
この馬鹿たれが。

どうか、かわいそうな自転車乗りの自転車を「共有」することだけはやめて貰いたい。考えもつかないだろうが、本当にかわいがっているのだよ。
人を疑う心は卑しいと思いつつ、でも、やっぱり自転車泥棒に寛大になれないのだ。