Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

大丈夫な日本

「大丈夫な日本」福田和也

福田和也氏は、当代きっての論客の一人であることに異論はあるまいと思う。文芸評論という分野から踏み出して、社会批評までを守備範囲とするこの人の発言には、私はいつも注目している。

本書で、福田氏は資本主義経済の本質を「無限」ととらえる。無限に市場が拡大し、無限に経済が発展して無限に豊かになる。で、その資本主義経済を「もうムリだ」だから世界は大変革のときを迎えているのだと指摘する。
この「無限に豊かになり、無限に幸せになる」図式自体はマルクス主義も同様であり、マルクス主義はそれがウソだとばれてしまったので潰えた。ところが、資本主義も、やはり同じ結末を迎えようとしている、それは私たちが信じて暮らしてきた「近代」の終わりである、と説く。
その典型が環境問題、資源問題である。我々の地球は無限でなく、資源も有限である。資本主義だけが無限でいつまでも調子よくすすむはずもない。

では、どうすれば良いのか?
氏は「江戸時代に学べ」という。人口減少でもいいじゃないか、無限に豊かにならなくても良いじゃないか、人やモノが移動しなくても良いじゃないか、人生の大旅行イベントがお伊勢参りであることは、不幸な人生なのか?いや、そうでなく、それで充分毎日を楽しく暮らしていけたじゃないか、と説く。

世界情勢については、アメリカの没落の時間だと指摘する。かつて、ボーア戦争をきっかけにイギリスが斜陽に入り、第一次大戦が終わったときには既にイギリスは一流国の座をすべりおちていた。
しかし、アメリカに変わる覇権国家の姿はまだ見えない。
日本は、アメリカか大陸(中国)のどちらかを必ず味方につけておかなければならないのが宿命で、歴史的には中国と距離をおくことで文明の発展をみた。この故知に習うべきだとする。
第二次大戦は、米国と中国の2国を両方敵に回すという必敗パターンだった、同じ轍を踏むな、そのためには「日本にとって都合の良いアメリカとはどういうアメリカか?」をよく考えるべきだと。

これらの見解に、私はほとんど賛成である。
氏は、最後のあとがきで、日本の核武装についても触れており、これを行うべきだという意見であるように見受けられるのが唯一違うだけだ。それは、思想的な問題ではなくて、現実に「日本にとって得なアメリカ」を考えた場合に、どちらの方策が有効かという技術論の相違に過ぎない。

評価は☆☆☆。
すんなり読めて、まったく違和感がなく、かつ、現実に対する有効な考え方を提示する書。どちらかといえば、福田氏独自の見解というよりも「保守思想」の代表的な主張が見られるというべきだろう。
保守というのは軍国主義夜郎自大愛国無罪主張日本版(笑)でもない。また、リバタリアニズムに見られる原理主義でもないと思う。それは、闇雲な変化を良しとするのではなくて、「現代人の見識」に関して慎重な態度、「過去に対して現代は必ず優れているという驕り」を注意深く戒める思想であると分かっていただけようと思う。そういう意味で、たいへん素直な良書であり、いわゆる啓蒙書であると思う。