Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

濃密な時間

会社から帰ろうと思って、空を見た。さっきまで降っていたようだが、小降りになっている。たいしたことはなさそうだ。「よし、行くか」

ところが。
10分ほど走ってから、雨脚が徐々に激しくなった。
自宅まで、普段なら安全運転で30分ちょいの道のりだ。しかし、雨の夜は、やっぱりこわい。ブレーキもきかないし、視界も悪い。
いつもよりも、ずいぶん手前でブレーキをかけ始める。効かない。カンチブレーキのシューが、ぬれたリムをこすって、水分が飛んだところでやっと効き始める。
すぐ隣を、無灯火逆走の自転車が通り過ぎる。全然見えないのでヒヤリとする。車道は左だ、しらねえのか馬鹿野郎と喉元まで出てやめる。ああ、こんな国になっちまったと思う。

春の夜の雨は冷たい。指先がかじかんでくるし、体がすっかり冷えている。おまけに暗い。
それでも、私の自転車はランドナーだ。旅の自転車だ。最初から電装品と泥よけを装備している。タイヤも溝付きである。
闇夜の照らすライトだけを、心のよりどころにして走る。
「こんな雨ぐらい、よくあることです。さ、気をつけて」
不思議なことに、私の自転車が私に話しかけてくれる。その声がちゃんと聞こえる。
「わかったよ。大丈夫さ。頼むぞ」
応えながら、いつもよりは抑えめのスピードで走る。

自転車通勤をしていると、年に何回か、間違いなくこういう目にあう。そういう夜をくぐり抜ける。その回を重ねるごとに、私と自転車の関係も深まっていくのだ。道具が相棒に昇格していくのである。
それは、つらくても、とても濃密な時間なのだ。

さて。家に着いたら。
自分が風呂に飛び込むのは当たり前だけど、でも自転車をボロタオルでぬぐってやるのだ。
明日も天気が悪いらしい。自転車通勤はお休みだ。

たまには、こんな帰路も悪くはないのである。