Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

この世で一番大事な「カネ」の話

「この世で一番大事な『カネ』の話」西原理恵子

この本は、たぶん賛否両論が激しいだろうと思う。
今頃「蟹工船」に共感したり、あるいは「自分探し」を指向している人は、この本を評価しないだろうと思う。
そういう理想論を(蟹工船は理想論のカタマリ)ぶっちぎったところから始まるカネの話である。

著者は漫画の名作「ぼくんち」の作者として知られる。
昭和40年代の高知の貧しい漁村で、貧乏だけど楽しく、したたかに生きていく子供達とその家族の物語だ。
人間の優しさと、いじましさ、汚さ。それがすべてないまぜになって、しかし暖かい作品であった。
あの漫画を読んだときから「これは、実体験がないと、描けないのじゃないかな」と思っていたのだ。
この本を読むと、まさにその通りだったことがわかる。
著者の父親は酒におぼれてドブに落ちて死んだ。母は再婚したが、その父親は事業に失敗し、ギャンブル狂で、子供の貯金まで使いこむような人間で、最後は自殺した。それでも、暖かいところもある人間だった。
著者は言う。「酒も、ギャンブルも、病気だ」
ギャンブルは勝つと思ってやるものではない、まず負けるものだ、だから負けたからといって暴れるのはルール違反だ、という。
そうではなくて、負けて笑っているものだ、もしも笑いが出なくなったら、それは自分の限界を超えてしまったということである。
仕事でもバクチでも、自分の限界を超えてしまったら、それに飲み込まれる。人は、暗黒に飲み込まれて、滅びてしまうのだ。

著者は言う。
お金の話をするのはきたないこと、避けるべきことであるというのは間違いだ、お金の話は重要である。お金の話を避けると、それによって得をする人たちができる。

生まれてはじめて、自分のお金で暮らしたときに感じたことは「自由」であった。
お金を稼ぐということは、自由を手に入れることである。

しかし、貧困は「不治の病」だと著者は言う。その日暮らしのギリギリの生活をする人たちは、まだ世界中にあふれている。
日本にだって、きっとたくさんいる。何しろ、年間3万人が自殺するのだが、さらに行方不明者がいるのである。「失踪」した人たちの失踪先が「あの世」でないと、誰にもわからない。
そういうギリギリの生活をしていると、刹那でしかモノを考えられなくなる。ほかに希望がないから。
いつかは、そういう生活を脱出したいと考えている。だけど、実際には、今日のご飯を食べて、明日のご飯がなかったら、明日もギリギリの仕事をするしかない。
毎日、その繰り返し。10年経っても20年経っても、彼の生活が変わるわけがない。

だから、希望をもって戦う気概が必要なのである。
最下位には、最下位の戦い方がある、と著者は言う。もとより一番になれるとは思わない、しかし、最下位を脱出することはできるのだ。

評価は☆☆。すばらしい本である。

今、仕事がなくて、たくさんの人が苦しんでいる。
私も、30歳をすぎて仕事がなく、そのあと、どういうわけか今の仕事になった。
会社は株式公開をして、上場企業の役員になったけど、その後、また無職になった。
億を超えた株券を持っていたけど、今や子供のこづかいみたいだ(泣)
会社を辞めたのは、本当を言えばいろいろ理由があるが、端的にいえば私は怒っていたからだ。

でも、私には、まだ仕事がある。仕事をして、好きな酒を飲んで、たまには銀座に行き、まれだけどお客さんに認められる。
仕事をすることで、次の仕事を作り出していく。
会社をやめて、職場も変わったけど、また仕事をして欲しい、というメールも来る。有り難い。

あるお坊さんが、こうおっしゃった。
「日記をつけていますか」
つけていません、と応えたら
「いいえ、でも、あなたの貯金通帳をみれば、それはよくわかる日記になっているはずですよ」
と。
ああ、そうだ、あのとき私はマ○イのカードの審査に落ちたくらい、ひどかったんだ、と思い出した。

お金を儲ける、仕事をする。それが、生きていくための方法であって、でもそれだけではなくて、とても大事なことである。
自分探しの結論は、お金がちゃんと教えてくれる。
あるいは、人生に立ち向かう勇気を教えてくれる。

この本を読んで反発する人もいるだろうと思う。それはそれでいい。
たとえ反発しても、それでも読んだ方がいいように思う。
それだけの重みのある本である。