Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

奇策

「奇策」風野真知雄。副題「北の関ヶ原・福島城松川の戦い」再読。

今、NHK大河ドラマ直江兼続を取り上げており、結構な視聴率であるらしい。
個人的には、団塊の世代の大量退職が始まり、どっちかというと戦国大名そのものの「独立事業主」の話よりも、直江のような家臣「俸給取り」の話のほうが受ける時代になったのかな?などと思う。
とはいえ、私はテレビを見ていないのであるが(苦笑)。

上杉家といえば、謙信公以来の武門の名家であるが、私は上杉家臣団の中では本庄繁長は格段に好きである。何度も謙信に反抗し、あげくに息子景勝の代にも秀吉の勘気をこうむり罷免、どこかへ雲隠れしてしまう。
それが、秀吉の死後に上杉家に帰参し、松川の戦いで伊達軍の侵攻をくじき、その上戦後処理で上杉家の存続を勝ち取るのである。
当時の本庄繁長は62歳で「人間50年」の時代では老骨もいいところであったが、結局70過ぎまで長命を保った。
この本は、そんな「煮ても焼いても食えない男」本庄の面目躍如するドラマであって、実に面白い。

1600年、関ヶ原の合戦で、上杉軍は退却する徳川に追撃をかけずに、北の最上と戦端を開く。これは、当時の上杉の領地が会津で、まず北の最上を撃破してから西上し、越後を取り返そうという戦略があったためである。
上杉景勝は「天下」よりも、越後の地を望んだわけである。

当然ながら、上杉軍の主力は最上に向かうのだが、そうすると伊達政宗が「空き家狙い」に出てくる。
そして、この伊達軍2万に対して、わずか3000の兵で迎撃する役割を担ったのが、本庄繁長であった。謙信の攻城戦に耐え抜いた戦上手であったからだ。
しかし、この人には、裏切り癖がある。

繁長は、伊達の勧誘に対して、適当な返事でとぼけまくる。伊達にしてみれば、たかが2万石しかもらっていない本庄に、15万石をやれば飛びつくと思っている。
ところが、繁長は「おれも安く見られた」と嘆く。「15万石でなく、30万石なら、一も二もなく裏切ったであろう。なぜなら、30万石あれば、天下を争うのにそれなりにやれる。15万石では、それは望めぬ」というのだ。
福島城の守りという損な役割を、ため息まじりに引き受けながら、そんな憎まれ口を叩くのだ。

伊達軍と福島城の間には、松川が蛇行して流れている。
本庄は、伊達軍の背後から夜襲をかけるという偽情報を流した上で、松川の上流から筏をだし、200の鉄砲隊を本陣前に上陸させるという奇襲をかける。この奇襲作戦がうまくいくように、したたかに準備する本庄が実に魅力的である。
繁長は、年をとって小便の出が悪いとか、体の疲れがとれないとか、息子が不出来だとか、あらゆる愚痴を並べたてる。
そうしながら、実はしっかりと伊達の裏をかき、奇襲を成功させ、見事、壮年の伊達正宗の侵攻を防ぐのである。

評価は☆☆。読んで損のない、実に上質のエンターテイメントであり歴史小説である。
本書を読めば、あなたも本庄繁長のファンになること、請け合いである。

繁長は言う。長生きをすれば、見たくないものまで見なければならない。どうしてこの世は、こんなにつらいことばかりあるのか。
泣き言を並べながら、だけど、それでも繁長は目の前の現実と戦ってみせる。決してあきらめず、工夫の限りをつくす。

今は、こんな時代である。苦労している人々は多いだろうと思う。
だから、この本が輝くのである。泣き言を言おうが、嘆こうが、それでもいいのである。したたかに、細心に、しかし望みは捨ててはいけない。
今が劣勢ならば、劣勢なりの戦い方をしようじゃないか。そんな繁長の声が聞こえてくるような好著である。