Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

孫は祖父より1億円損をする

「孫は祖父より1億円損をする」島澤諭・山下努。副題は「世代会計が示す格差・日本」

最近、この本を読んでたいへん衝撃を受け、再読していた。読めば読むほど唸るばかり、である。

最近、格差問題というのでマスコミは大騒ぎしているが、世界でも日本は格差は少ないほうである。ただ、近年になって、格差が拡大してきているのは事実である。
これは、世帯が高齢化して年金収入の人が増えたり失業世帯が増えたりすると、当然ジニ係数が増えるのである。一方で、医療費や失業給付などの公的扶助があり、一方で労働世帯は税負担をするので、そこで実際の格差は縮まる。
ところが、本書で問題にしているのは、そのような格差ではない。
本書が指摘するのは「世代間」の格差、なのである。

世代会計については、詳しい説明が著者の島澤氏のホームページにあるので興味がある向きは参照していただきたい。
http://homepage3.nifty.com/~~shimasawa/generationalaccounting.htm

要約すると
・世代会計とは、政府との受益と納税負担を、すべて金額換算して、世代間の受益と負担の合計を示したもの
ということができる。
この手法にもいろいろあるのだが、日本政府の場合には、たとえば教育支出(教員の給与)や社会資本ストックからの便益を「収入」に計上している。(欧州では、これらは含めないようだ)
このように、かなり政府に有利な計算を行って、その上で世代間取引はどうなるかというと、平成13年度の経済白書で
60代・・・+5700万円
将来世代・・・-4200万円
となっている。
なんと、生まれた年が違うだけで、一方は政府から5000万円以上のプラスを受け取り、もう一方は4000万円以上のマイナスである。
とてつもない格差であり、よほど問題ではないか?というのが本書の指摘である。

たとえば、年金ですが、今の70代の掛金は900万円で、それに対して5600万円、6.5倍のお金を受け取れる。
しかし、ゼロ歳児は、生涯に4900万円を支払い、11200万円を受け取るので、2.3倍しか受け取れない。
それも、年金財政が破綻しなければ、の話だが。。。

その上、この計算では、事業所負担分が隠れている。建前上は事業所が半分、本人が半分負担となっているのだが、実際は本人が働かなければ事業所も払わないので、実は「天引き」に等しい言葉のマジックである(苦笑)。
で、事業所負担分を計算に入れると、、、70代は3.25倍、ゼロ歳児は1.15倍となる。
1.15倍って、、、これじゃ、公的年金払わないで、自分で積み立てた方がマシだと思う人が若い人に増えているのは仕方がないじゃん。

その上、OECD加盟国で比較すると、日本の年金支給額は、突出して多く、ナンバーワンである。
ジニ係数OECD加盟国比較(補正前)を議論に出す人は、なんでこういう数値を議論しないのであろうか。

ついでにOECD加盟国比較でいえば、日本の家族、子供向け支出はGDP比0.8%という低さで、加盟国中下位から3番目という話である。平均は2%なのだ。教育関係者が怒るのもムリはないので、これじゃ少子化対策などできるわけがない。
一方で、高齢者向け支出は8.6%。平均の7%を遙かに上回る堂々の数字である。

なぜこうなるのか?
実は、少子高齢化によって、日本の投票人口の平均年齢は既に55歳であり、老人に優しい政策でなければ政治家は選挙で生き残れないからだ。
一方で、子育て現役世代は苦しいが、彼らに配慮しても大して票にならない。

もっとひどいのは子供であり、これから生まれる人である。なにしろ、選挙権がないんだからね(笑)
かくして、赤字財政は続き、60年国債で我々は子孫のカネを使いまくっているわけだ。
しかし、そもそも、今生きている我々が、子孫のカネまで使い込む権利があるんだろうか?

評価は☆☆☆。本年でもっとも衝撃を受けた書である。一読をお奨めしたい。

例の「後期高齢者医療制度」騒ぎのとき、マスコミはいっせいに「弱者いじめの小泉改革」だと大非難だった。
本当にそうだろうか?本当の弱者って、ひょっとして我々の子供や孫じゃなかろうか?
どうして、あれほど格差問題に熱心なマスコミが、世界の中でも突出して大きなこの格差を、しかも経済白書に書いていることを、どうして一言も報道しないのか。
ははあ「ポピュリズム」おまえらだけには言われたくねー、と思ったりする(苦笑)

日本人は戦後ハイパーインフレ預金封鎖を経験して「いざとなれば、なんとかなる」という気持ちがあるのではないか、と思う。
しかし、今や状況は違っている。あの当時は、年寄りも少なかったし、我が国も若く、労働人口が増えて人口ボーナスがあり、かつ世界は東西対立で西側新興国の日本に民需が大量に流れ込んできた。だから高度経済成長で、それらのマイナスを帳消しにしてあまりあった。
今の日本に、そのような環境の一つでもあるだろうか?

国家が年をとってきたから、お金は大事に使わなければいけない時代に入ったと、よく考えなければいけないのだと思う。