Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

経済ってそういうことだったのか会議

「経済ってそういうことだったのか会議」佐藤雅彦竹中平蔵(対談)。

ベストセラーになったようだが、初出時に未読であった。
今や、すっかり「小泉改悪の下手人」扱いの竹中氏だけど、この本を読むと、全くもって市場原理主義者じゃない。

私も、この対談相手の佐藤氏と同じく、経済学についてはド素人なので、本書の読者層にはピッタリである。B層である(笑)。
で、本書は、経済に対するB層な疑問「そもそも、お金とはなんなのか」「経済学の目的とは何か」「税金とは何なのか」などの疑問に、平易に応えてくれる。
竹中氏の回答も、素人相手にわかりやすいように話されており(これって、学者にとっては大変なことだと思う)ごまかされた感じがない。なるほど、こりゃ売れたわけだと素直に納得した。

貨幣のたとえ話が面白い。佐藤氏が子どもの頃に流行った牛乳瓶のフタ集めが、みんなが欲しがったために交換の対象となったこと(換金性の獲得)、牛乳瓶のフタにも稀少なものほど価値が高いとされたこと、ある日牛乳屋の親戚をもつ子が大量のフタを持ち込んだために、フタの価値が大暴落してしまったこと(インフレ)が語られる。
これは、ミニチュアだけど現実の金融政策とそっくりで、たぶん本書の中で白眉のエピソードだと思う。
また、貨幣に関連して、EUなどの経済共同体について、メリットはあるけれども、同じ貨幣流通圏の中で富の集中が起こることによる過疎化と、各国が金融政策に関する主権を失うことによる経済の破綻という例としてアジア通貨危機をあげて説明している。
これは予言的な内容で、昨年のリーマンショックでドルはもちろんだが、それ以上に下落したのがユーロであり、その中でもアイスランドが破綻の危機に瀕しているわけだ。つまり、アジアでいえば、香港ドルと同じで、通貨統合ということはアイスランドという国の通貨主権を放棄していることだから、どんなに金融危機になっても為替レートの変更がきかない。インフレを引き締めるのに金利だけしか操作できないわけで、為替はユーロの中心であるドイツをみて動くだけだから、こんな事態になった。
反対に、通貨統合の中心であるドイツにとっては、直撃を分散できるのでいいのだが。。。
で、こんな時期に東アジア共同体、まずは経済共同体を、などと言い出す宇宙人首相なんて大丈夫かよ?!などと思ってしまうわけだ。そうなれば、人民元中心の通貨政策にくっついていくだけなので、うまくいけば金魚のフンでおこぼれにあずかれるが、逆にまわった日には指をくわえてみているだけである。
ま、どうせ、○チガイ金融相をはじめ、現政府にそっちの方面に強い人材はいないので、自主通貨を持つほうが危険と見切ったのかもしれないな(苦笑)

また、税金については、とられるものより払うものという立場から「簡素、公平、中立」(といっても公平の定義だけで人の数だけ存在する)の原則の説明、また逆に、子どもについて「他人のものを盗ってはいけない」と教えるのに、どうして国家だけが「他人のものを盗る」のが許されるのか、という問題点も指摘する。
このへんの話になると、経済学よりもイデオロギーの話になってしまうわけで、経済政策に関する議論がイデオロギー色に染まってしまう原因がおぼろに理解できる。
つまり、経済政策に関して「これが正しいのだ」と言い始めたら、他人の言うことを聞かない、ということである。だって、イデオロギーに理屈はあとから付くもので、そもそも理由はないんだもん。
イデオロギー上の主張が変わるのは「転向」した時だけだからね。おぞましい。

評価は☆。
竹中氏に関しては「市場原理主義者で、日本をアメリカに売った人物」などという一面的な評価もある。
しかし、本書は、そういうグローバリズムに関して、竹中氏が必ずしも賛同していないことを示している。ただし、グローバリズムに対抗すれば、世界の中では沈んでいかざるを得ない。
産業を育成するには、保護と競争が必要で、問題はその配分なのだ。保護ばかりすると、国内でしか通用しない産業を作り出す。その代表が建設や運輸、そして日本の特徴として金融だった。だから、これらの産業は競争させて鍛えないといけない。
逆に保護が必要な産業もあって、製造業や化学だった。よく製造業派遣が問題になるが、産業としてみると、製造業派遣の解禁は業界にとっては「保護」である。
竹中氏の政策は、保護と競争の2色に色分けしながら業界単位でみると、それなりの納得性はある。
問題は、その産業という立脚点で、国民の生活そのものには目を配らないというマクロ政策そのものだった。これは、竹中氏の「経済学ができるのはマクロ政策だけ」という主張と一致する。
つまり、竹中氏は、あくまで政治家よりは経済学者であろうとしたのだろう。

私のように、経済学を学んだ経験のない人には、充分に面白い一冊である。