Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

戦略の不条理

「戦略の不条理」菊沢研宋。副題は「なぜ合理的な行動は失敗するのか」

私は、仕事のことでは常に悩んでいる。
今まで、景気なんて論じる資格もない零細企業ばかりを経験してきたから、どっちかといえば「切った張った」の局地戦ばかりやってきた。
しかし、それだからこそ、悩みはある。

まず、資源がない。カネがないから、思い切った策を打つこともできないし、企画をひとつ打つにも勇気が必要だ。
お客様は、なかなか買ってくれない。値段が高いとか、タイミングが悪いとか、仕様が合わないとか、他社に負けて持って行かれるとか。
それで、始終悩む。
毎晩、酒を飲んで寝るが、実は不安なのだろう。

当たり前だが、経営戦略を決めるには、合理的な決断をしようとする。そのほうが、成功の確率が高いと思うからである。
言うまでもないが、みんなが合理的な決断を下すと、一つの市場にプレーヤーが集中し、その市場は儲からなくなるのだ。したがって、不合理な決断をした者が勝つこともあるわけだ。
市場は不思議なものだが、しかし、本書が説くのは、そのような市場の不可思議ではない。

本書を読んで、なるほどと思い当たるところが多くあった。
まず、著者は、世界をカール・ポパーの分類に従い3つに分ける。

第1の世界は、物量の世界である。数字で表される世界である。この世界の戦略はクラウゼヴィッツに代表される。
暴力によって、相手を屈服させる。物理的な行為が、すべてを決するという思想である。
経営でいえば、競合よりも安くて高性能ならば売れる道理である。
しかし、皆がこの戦略をとれば、当然に価格競争は極限に達し、誰も儲からない結果に至る。

続いて、第2の世界がある。それは、心の世界である。
これは、リデルハートの戦略である。人がものを決定するのは、物理的な要因ばかりでない。一見、物理的な要因で決まっているように見えても、その決定を下したのは心である。
だから、その心理をつかめば、相手を動かすことができるはずだ。
経営的に言えば、たとえば標準規格を獲得することなどがそれにあたる。ベータはVHSよりも画質が良くてコンパクトだったが、結局敗れた。
商品というモノがすべてを決めるわけではない。
それは、最終的には「心を動かす」危機感「投機の心理」となって作用する。

さらに、第3の世界がある。これは、知性の世界である。
この戦略の例としては、ロンメルハンニバルが上げられている。「名将がきた!」というだけで、相手に不合理な行動をとらせる。今で言うメディアの活用であろう。
あるいは、ブランド構築かもしれない。
こういうものの重要性は、ますます増すばかりである。

評価は☆☆。大いに参考になった。

難点をいえば、第二の世界と第三の世界の区別が、私のアタマではあいまいにしか捉えられなかった。
心の世界を言葉にすれば、第二の世界から第三の世界に移行するのだが、第二の世界との境界は微妙である。ただし、購買活動に限って言えば「投機」が第二の世界のカギだと理解はできた。

なんとなく思ったことだが、人の購買行動は、第一、第二、第三と進むように思う。
まず、性能スペックを見る。それで、充分に良いかどうかを判定しようとする。次に、心で「欲しい」かどうか「感じる」。
そして、最期にブランドやら信頼感で、その「欲しい」を補強して、購買行動に踏み切る。
それぞれの世界の移行に失敗すると、その前の世界で表す。
たとえば、第二の世界「投機」心理になっていないときは「買っても、必ずしも満足な結果が得られるとは限らないじゃないか」などと、第一の世界(数字的な不満)」として訴える。本当は、第二の世界の話なのだ。

そんなことを考えた。
示唆に富んだ本であると思う。着眼点が面白く、文章は単純だが、実は深いものを語っているように思う。
経営に携わっている人には、お奨めできる内容である。