Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

倒立の論理

さきの「ほんとに読んでみた」に関して、読者の方から「憲法の主流解釈について」質問をメールでいただきました。なにしろ、20数年前のできの悪い法学部卒ですから、すぐに馬脚を表しそうですが(笑)とりあえず平易に書いてみます。

憲法七条の十に定める「儀式」は、「皇室典範に定められる儀式」と解釈するのが主流解釈です。大嘗祭だの新嘗祭だの、あるいは即位の儀とか。政教分離規定の問題で色々あるんですが、とりあえず皇室典範に書かれているので、それは「儀式」つまり宗教ではない、ということになっているわけです。法律で決められた行為ですよ、と。その他の園遊会だの式典だのへのご出席は、仮に予算が国からついたものであっても「公的行為」と呼ばれ、憲法にいう「国事行為」とは区別されます。法律に特段の定めがない、しかし禁止するにはあたらない。政治性、宗教性がない行為ですから。(共産党の志位委員長が指摘したのは正しいです)

憲法は「公的行為」を「私的行為(食事やら相撲観戦やら)と同じく「禁止しない」というのが解釈ですが、だからといって「なんでも出来る」わけではありません。記事中に書いておりますが「政治行為」はできない、というのが主流憲法解釈であります。やっぱり「天皇党党首」はマズイですもん(苦笑)
宗教行為については、いわゆる「私的行為」であります。天皇家だって、菩提寺がありますし。

今回の件では、1ヶ月ルールを宮内庁が決めたのがおかしい、と小沢幹事長は逆ギレしておりますが、陛下のスケジュール管理上、一定のルールが必要なことは自明のことです。健康問題以前に、そもそも陛下のスケジュールは殺人的に忙しかった。陛下はほとんど休日返上で公務に励んでおられたのですが(年間の休みが数日、という年もあったそうです)さすがにご病気以後、無理になってきました。しかし、相手によって「会う」「会わない」を決めることは、それこそ政治行為になってしまいます。それで1ヶ月ルールを決めて、文字通り「事務的に」処理しておりました。
いかに、天皇家が「政治行為」を丁寧に避けてきたか、ということです。

じゃあ、今回の、内閣によるスケジュールの変更は、政治行為と言えるでしょうか?
はっきりいえば、そりゃあ内閣が意図することですから、政治的なことに決まっております(笑)

天皇が行っている外国首脳との会見は、そもそも「公的行為」すなわち「政治行為ではない」(だから可能)なはずのものでありますが、決まったルールをワザワザ曲げたことによって、会見が、天皇が行ってはならない「政治行為」に該当するのではないか?という疑義が出ているわけです。
つづめて言いますと、「天皇の政治利用」とは「天皇に政治行為をさせてはならない」とした憲法に違反する行為であるので問題になるわけであります。

問題は、だから1ヶ月ルールがあることではなく(はっきりいえば、民間企業のトップだって、10日以内のアポ禁止というところはたくさんあります。多忙であれば当然そうなる)そのルールを曲げたことにあります。ルールを曲げておいて、「ルールを作ったやつが悪い」というのを、開き直りと世間では申します。

少なくとも、相手国にとっては、間違いなく「政治行為」として捉えていますからね~(笑)そうじゃなければ固執するワケがないんです。

ちなみに、「天皇がやった行為なんだから、政治行為じゃなく公的行為に決まっているだろ」というのは、有名な「倒立の論理」ですね。近年の例では「事前協議がなかった以上、核はなかった」という理屈がありました(笑)。これはヘンですよね。

行う行為を法律で定めるのが当然なのですが、行き過ぎた法実証主義は、権力の行動を無条件に正当化してしまうのです。これは、ナチスドイツの例が有名で、ナチスが行った犯罪は、当時の法律ではすべて「合法」なんですね。なにしろ、ナチスが反国家的だと判断したら無制限に処罰できるという「法律」があったんですから。「政府が反国家的だといったら反国家的」「だから君は有罪、政府が有罪だと決めたから合法的に有罪」「よって、合法的に処分」でした。ついでにいえば、これに要する費用は本人に負担させることになっていたので、処刑された家族のもとに死刑に使った銃弾の請求書がちゃんと送られたんですよ。ええ、もちろんこれも合法です。死刑のお知らせと一緒に請求書。銃弾3発合計○○マルクとかね。
この理屈が、今回の小沢幹事長の理屈と瓜二つだ、と私は言うのです。
倒立の論理を使う国家権力は、必ず独裁を志向するんです。だから気味が悪いのです。

国家権力に対しては、それが濫用にならないように、ちゃんと抑止力を働かせる必要があるんですね。
ましてや、天皇陛下というのは、余計に慎重に抑制しとかないといけない。それが反省ですよ。「政府がやった以上、公的行為だ」「政府が決めたから、政治行為じゃない」なんて、そんな理屈をまかり通らせてはいけないんです。
「政府の権力が決めたんだ、無知蒙昧の庶民が何をぬかす」と当の権力者が言い出したら、そりゃ用心しなければいけません。国家権力は、きっちり監視するに如くは無いんですよ。