Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

暗く聖なる夜

「暗く聖なる夜」マイクル・コナリー

コナリーといえば、現代ハードボイルド作家の代表格だ。
彼の作品は、すべてハズレがない。驚くべきことである。よく練られたストーリー、心に染み入る描写、魅力的なキャラクター造形、リーダビリティの良さ。
その上、作品の中には、今のアメリカの哲学がちゃんと詰まっている。

本書は、コナリーのヒット作「ボッシュ・シリーズ」の中でも、最優秀作の呼び声が高い作品である。
主人公のボッシュは、ロス市警の退職刑事。現役時代に、未解決になっていた事件を再捜査することを思い立つ。
その事件は、映画会社の女性スタッフが玄関前で殺された事件で、最初は通り魔的犯行と思われていた。
ところが、彼女の勤務していた映画会社で、200万ドルの札束の上でギャングがはしゃぐシーンがあり、そのシーン撮影用に運び込まれた本物の紙幣(おもちゃの紙幣ではリアリティが出ないと言う監督の主張による)が、突如現れた強盗に奪取される事件が起こり、その前の殺人事件も突如脚光を浴びることになる。
2つの事件にはつながりがあるのではないか?
ところが、200万ドル奪取の事件が起きたとたんに、ボッシュは担当を外されてしまう。代わりに現れたのはFBIで、いわば事件を「横取り」したのだった。
アメリカでは、地域警察とFBI(全米の重大事件を捜査する)の縄張り争いで、こんなことが起きる。
派遣されてきたFBI捜査官だが、なんと昼飯に入ったカフェに、偶然にピストル強盗が押し入り、ひとりは死亡、もうひとりも半身不随の重症を負う。
他の捜査官は、この事件を「ついてない事件」として嫌がり、あとは迷宮入りを待つだけの状態になっていたのだった。
ボッシュは、この事件の独自捜査を開始するのだが、そこにFBIが現れて、執拗にボッシュの捜査を妨害する。
単に、彼らのメンツのためなのか、それとも何かほかに理由があるのか?
昔の仲間の協力と、半身不随となった元警官クロスが記憶を取り戻したことで、ボッシュは捜査の真相を解明するのだが、そこにはさらに深い闇が待っていた。
すべてを操っていたのは、全然別のある人物だったのだ。
そして、最後に、ボッシュはひどい怒りの道と、暗く聖なる夜へつづくはかない光のどちらかを選ばなければならなくなる。

私は、ジャズといえばアート・ペッパーが好きである。
彼のアルトの音色にある深い哀愁が、なんとも言えないのだ。この音色は、他のミュージシャンでは出せないように思う。
どうやら、主人公のボッシュもペッパーがお気に入りのようだ。
この本は、ペッパーのアルトを聞きながら読んだ。
ちなみに、ウィスキーはブラックブッシュと呼ばれるブッシュミルズ黒ラベル。私は、これは飲んだことがない。
今度、バーで飲んでみよう。

評価は☆☆☆。
読まないと損する本だ、というくらいに推奨。
ただし、海外ハードボイルドというのは、読み慣れないとツライかもしれない。

ハードボイルドの悲しみというのは、基本的に男が傷ついて再生する物語のなかにある。
再生はするのだが、それは、決して傷つく以前に戻ることではない。その傷は、永遠に残る。
その傷の痛みに苦しみながら、それでも動くことによって、男は再生するのである。だから、本当のハードボイルドはカッコ悪い。
人が必死に這い上がろうとしているときはカッコ悪いのである。
そのカッコ悪さの中に、かっこよさを見つけるので、つまり抽象的なかっこよさなのだ。
ジャズやウィスキー、あるいはブラックコーヒーにタバコといった小道具がかっこよい訳ではない。

そのあたりが、日本のハードボイルド作家には、今ひとつ薄いと思えるんだよね。
だから、国内物には手が伸びない。
なんでだろうかねえ。