Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

デフレの正体

「デフレの正体」藻谷浩介。副題は「経済は人口の波で動く」。

最近の新書ではベストセラーである。多くの書店で平積みとなっているし、著者は政策投資銀行の研究員。
これは一読せねばならん、と私が考えたのは、もちろん「野次馬根性」だからである(苦笑)。

著者は、経済界の至上命題「経済成長しないからデフレなのだ」に真っ向から反論する。
つい先年、リーマンショックで崩壊するまで、我が国経済は「戦後最長の平成景気」であった。
史上最高益を更新する企業はあまたあったのである。
しかしながら、その景気は、ご存じのように、多くの国民にとってはまったく実感に乏しいものであった。
そこから「格差の拡大」だとか「再分配機能の低下」だとかが指摘され、ひいては民主党による政権奪取につながったと私は思う。
(その民主党がどうなったかは、今は措いておこう)

しかしながら、著者は、これらの事実を見た上で、いわゆる「内需不振」は、決して成長率が足りないのではなく、人口の波によるものだ、「率」ではなくて「絶対数」をみよ、と説く。
そこには、日本の「超高齢化社会」があり、生産人口が減る一方という現実がある。
著者は言う。「いわゆる現役世代である生産人口は、生産するとともに子育てやレジャーなどで消費の主体でもある。これらの人々が減っていくのが内需不振の原因である。成長率にのみとらわれた議論をすべきでない」と。
そして、日本の雇用制度に守られた中高年世代の給与支給額(日本国民の総額)が増えているのに若年層の収入が減っていることを指摘し、高齢者に偏った資産分布から、もっと若年層に収入を移転すべきだ、と主張する。

評価は☆。
たいへん面白く、かつ説得力がある。
ただし、本書の内容は、いわゆるマクロ経済学の知見には欠けているので、そのあたりが正統な経済学の教育を受けた人には受け入れられない理由であろう。
いわば、一般人の「庶民感覚」には極めてマッチしているので、それだけ売れているのだと思う。

仮に著者の言うように、生産人口の減少(これは事実だ)が内需不振の原因だとする。
しかし、一方では、生産人口が減れば、生産高も減るわけで、そうすると消費人口が減るのとバランスするように思われる。
生産人口が減っても生産高が減らない理由は、生産の機械化とか、あるいは輸入などが考えられる。
しかし、輸入は、統計上ではそう大きな比率を持ってはいないのである。
通常の経済学で考えると、生産=消費なのであるが、著者は生産されてから商品されるまでの時間の間に、高齢化が進行するぶん、在庫が腐るのだと説明している。
これ自体は、数学で言うゼノンの命題のようで、それなりにもっともらしい。
どこの「時点」で切っても、アキレスは「亀に近づく」が「亀はその間も走る」ので、いつまで経ってもアキレスは亀に追いつけない。アキレスが亀に追いつくのは、「速度」=距離/時間という概念を導入しなければならないのである。
しかし、国内経済レベルの大きな現象を、そのような「時間差」だけで説明するのは難しいように思う。
だから、私は本書の内容に、すべて納得はできないでいる。

しかし、人口の比率が経済を変える、というのは当然あることで、人口ボーナスというのは普通に観察されることだ。
かつて「老いてゆくアジア」(大泉啓一郎)を読んだ時の衝撃は、今でも鮮明に覚えている。
今の日本が、人口ボーナスを失ったことは事実である。「人口ボーナスが失われたぶん、経済成長率が鈍化します」という説明は成立するだろう。
ただし、それですべてのデフレの原因だというには、やや強引な気がするので。

高齢富裕層の問題であるが。
実は、すべての人が「自分の死期を正確に予測」できたら、資金は流動するのである。
しかし、それだけは、いまだ神のみぞ知る、なんですなあ。

物事、なかなか理屈どおりにはいかないもののようである。