Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

ナイトホークス

「ナイトホークス」マイクル・コナリー

コナリーは大好きな作家だが、なかなか人気があって、書店でも新刊以外は売り切れていることが多い。
しかしながら、古書店をこまめに見ていると、それでも旧本が見つかる。
手元不如意なので、古本屋を活用している私にとっては、「コナリー探し」は楽しい作業の一つである。
学生みたいだが、それはそれでいいじゃないか。
おのれのジェットコースター人生を楽しむ方法である。

で、本書だが、あの「ハリーボッシュシリーズ」の第一弾である。
読んで驚き、処女作にしてこの完成度!
新聞記者をしながら作家になったコナリーは、やっぱり文章が巧いのだ。簡潔でいて、それでも惹きつける魅力がある。

主人公のボッシュ刑事は、上司の政治に付き合わない有名刑事である。「ドールメイカー」連続殺人事件を解決して、一躍有名になったので、警察内部で目を付けられてはいるが、しかし、手は出せないのだ。(このあたりの設定は、「新宿鮫」シリーズと似ている)
そのボッシュ刑事は、早朝に、下水管の中で発見された死体の捜査にあたる。
その死体は、一見、よくある薬物死(麻薬の致死量を超えてしまう)だと思われた。しかし、死体には、長期にわたって麻薬を使用したあと、断薬していたあとがある。
検視の結果、この死体はあきらかに他殺だと断定される。何者かが、この男を自殺に見せかけて殺し、下水道に放置したわけである。
そして、この男が質屋に、高価な翡翠のブレスレットを持ち込んだことがわかる。そのブレスレットは、世間を騒がせた銀行の貸金庫襲撃事件で盗まれたものだった。
ボッシュ刑事は、この銀行襲撃事件を捜査しているFBIのエレノア刑事と共同捜査をすることになる。
捜査をするうち、事件の犯人はベトナム戦争に従軍した「トンネルネズミ」の一員だということが分かった。
「トンネルネズミ」は、ベトコン達が潜む地下壕に潜り込んで作戦を行う兵士の別称である。
ボッシュ自身が、かつてその「トンネルネズミ」であった。
忌まわしい戦場での記憶に直面しながら、ボッシュ達は犯人達を追う。
そして、物語のラストで、ついに意外な真犯人が姿を現すのである。

「現代ハードボイルドの到達点」とまで激賞されるボッシュシリーズの原点である。
ハードボイルドの原点は、何度も言っているが「傷ついた男の再生」なのである。
日本では、ハードボイルドといえば、1キロのボロニアソーセージとオレンジを食い、ピストルをぶっ放して人を殺す物語だと思っている人も多い。情けないよ。
ハードボイルドは基本的に都会の物語で、それは男が傷ついて、その傷を癒すのに都合が良いからである。
仮に農家であっても、そこに男の挫折と再生の物語がきちんと書き込まれていれば、それはハードボイルドとして成立するのである。
外見じゃないよ、中身なんだよ。

評価は☆☆。
後期のボッシュシリーズに漂う哀感が、この処女作には足りない。だから、2つ☆とした。
だけど、その他の「似非ハードボイルド」とは一線を画すものである。
読んで、まったく損のない一冊なのだ。

私も、どっちかといえば、再生中の身の上なのである。
しかも、ボッシュと違って、ロマンスもない(泣)
現実のほうが、よほどハードな毎日だということに気づいた。
がっかりする結論であるが、それでも戦っていくほかない。
どういう運命の人生なのか、と思うが、なんとかなると思って頑張るしかないのである。
そういう身の上の人は、今の東京には多いだろう。
誰のせいでもなく、自分の生き方の問題として、戦うしかないのである。
ハードボイルドを読むのは、戦友の仕事が見たいからなのだ。