Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

老いはじめた中国

「老いはじめた中国」藤村幸義。

米国の財政赤字に端を発するドル安危機に加えて、欧州危機まで重なり、世界経済はまさに地獄の縁にいるような状況である。
一歩間違えば、おそらく世界恐慌であろう。
PIGS(豚)とあだ名されるポルトガル、イタリア、ギリシャ、スペインが足を引っ張って、ユーロは息絶え絶えである。
ドイツとフランスが事態の収拾に動いているが、これだけの荷物を背負うのは独仏だってイヤである。
もともと、欧州経済は米国経済の月(米国経済が太陽)だと言われていたのだから、太陽がかげっているのに、月だけ光ることはない。

さて、ここで一躍世界の救世主になるか、という支那の経済であるが、これがかなり危なそうである。
もともと、ありもしない内需公共投資で無理矢理引っ張り上げてきたのである。
おまけに、輸出ドライブをかけるために、人民元を故意に安く据え置いた。
当然インフレがひどいわけで、不動産価格だけが上がる状況=我々になじみ深い「バブル経済」にどっぷり浸かっていたのである。
しょせん、日本の部品を買ってアセンブルし、米国に輸出するという中継貿易モデルの国だから、最終消費地たる米国がこけると痛い。
リーマンショックで普通なら真っ逆さまに墜落するところ、共産党が遮二無二公共投資で支えてきたのだが、いよいよ厳しい。
支那は、あまりに大国であり、人口の圧力で早晩こけると私は思う。
年率9%成長しなければ、失業者を吸収できないのである。
このままいくわけがない。
そうなるとどうなるか?
世界の投資家だってバカではないので、同じ危惧を抱いている。だから日本へ資金が逃げる。おかげで、こんなひどい状況なのに、円だけが高い。
日本人にとっては、まさに不条理以外の何者でもないのだが、こんな不景気でも、日本は世界の中で「一番マシ」だと思われているのである。
だから、余計に荷物を背負うわけだ。苦しい日本国民こそ、もっとも哀れな存在である。

さて、かつて大泉啓一郎の「老いてゆくアジア」を読んで、人口ボーナスがもたらす経済成長と、その逆に高齢化がもたらす経済縮小の説明を読み「なるほど」と深く頷いたことがある。
その大泉氏が指摘した事項として、支那の人口問題があった。有名な一人っ子政策である。
家族2人が結婚して1人しか子どもを作らないことにすれば、確かに人口は減る。支那大陸は巨大すぎるから、その着想はわからないことはない。
しかし、である。それが「結果」だとしても、その過程ではすさまじい「高齢化」が起こるのである。

本書によると、支那の生産人口のピークは2011年、まさに今年である。
これから高齢化が始まり、2025年には、なんと高齢者が6億人に達するという。
人口14億だか15億だかわからない国であるが(苦笑)しかし6億人はすごい。いったいどうするのだ?
普通ならば、国家破たんの規模である。
ま、日本も同類なのであるが(笑)ただ、一人っ子政策をとっただけに、高齢化の速度がおそろしく速いのだ。

評価は☆☆。
たいへん興味深い本である。出版は2008年らしいが、今でも充分に通用する内容であろう。

さて、人口ボーナスを失った支那であるが、そうなると、今までのような経済成長を維持するわけにいかなくなるだろう。
先に述べたように、主に大学卒を中心とした高学歴の若者の受け皿を維持するには、9%の成長率を確保しなければ厳しいが、それは難しい。
すると、若年失業者が増える。我が国と同じである。
ただ、富める期間が我が国よりも遙かに短いだけ、貯蓄をもった老年世帯がない。あっという間に不安定な社会になることもあり得る。
そのときに、中共はいかなる判断をするだろうか?
普通の国ならば国家破たんだが、中共は破たんしないと私は考える。
日本とちがって、あの国には、老人福祉といわれるものがほとんどない。(共産主義なのに、ねえ)いくら高齢化が進もうが、コストは増えないのである。
若年失業者だけを吸収したら、あとは国ごと「姥捨て山」にする選択肢をとるのではないか、と思うのである。
若年労働者を吸収するだけならば、簡単な方法がある。つまり軍隊である。

世界不況による経済の沈下、社会福祉が整備されていないが故の高齢者の福祉負担が若年層にのしかかる構造、深い格差構造、中間層の欠落。
これらをもって、単に「日本の先行きと同じ」とは、私には思えない。
むしろ、どちらかといえば、戦前日本に似ているのではないか、と思う。

アジアの経済成長を取り込むには、TPPのようなアメリカ主体の枠組みではなくアジア主体だ、という主張がある。
しかし、それらの予測に、人口動向がしっかりと織り込まれているだろうか?
人口ボーナスを失うのは、支那だけではなく、アジア全般に言える傾向である。
一方のアメリカは、まだ人口が増え続けているのだから、これは単純に言えない問題のはずである。
国防上は食糧自給を考えるとTPPに問題ありだが、かといってASEAN+6のようなアジア主体経済が、本当に長期にわたる成長戦略だという保証はない。
未来予測が難しい中で、人口だけは、ほぼ確実に予測が当たる分野なのだから。