Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

着飾った捕食家たち

「着飾った捕食家たち」ピエール・クリスタン。サンリオSF文庫、絶版。

ピエール・クリスタンはフランスのSF作家で、ふだんは大学で文学の教鞭をとっているらしい。
とはいえ、本書の刊行日はすでに20年以上前なのだから、今はどうなっているのか分からない。
もとは、ドラマのライターだという。

この作品は連作短編集で、遠い未来に、人類が破滅的な状況に陥り、その難を避けるために地下都市に逃れ、遺伝子が異常を起こして変容していく人類の姿を描いている。
その変容は異様で、地下人類をとらえて食う地上人類も存在しているわけである。
地下人類は、繁殖を人為的にコントロールするために、性別すら失っている。
そういう悲劇的な未来が、豊かな想像力で「これでもか」とばかり描かれているのだ。

なにかの賞をとったらしいが、たしかに圧倒的な描写力ではある。
しかし、私には違和感が残る。
いや、作者の狙いは、その「違和感」なのであるが、、、

原因は2つあるだろう。

1つめは、小説技法の問題である。
この作品の映像イメージは鮮烈だが、ストーリィは、とりたてていうほどのものはない。
これは、たぶんアニメで映像化するべき作品なのだ。
作者のクリスタンは、もともとドラマの脚本を書いていたそうで、そういう片鱗がうかがえるのである。
しかし、小説はあくまで「文字」の芸術である。映像がイメージにあるのであれば、そのとおりの作品(アニメ作品や特撮)をつくるべきじゃないか、と思う。
映像が難しい(予算やら時間やら)ので、代替として書かれた小説はすぐにわかる。それは「代替物」だからだ。
読者をなめてはいけない。代用食で客から金をとっては失礼ではないかと思う。

2つめは、世界観である。
たぶん、作者には、こんなふうに(この作品のように)世界が見えているのである。
私には、そう見えない。
そこに、違和感が生じる。その違和感が、新たな何か生んだり、芸術的な感興を呼び起こすものであれば、それが小説の狙いということになる。
しかし、私の違和感は、そんなふうにならない。絶望もしないし、抽象的な美も感じない。
こんなことは、よくあることである。
どんなに評判の料理店だって「いや、あれはうまくないよ」という人がいる。

早い話が、私の味覚に合わなかったわけである。
よって、評価は無。仕方がない。

実は、この小説は大学時代に読んで、やっぱり「面白くない~」と思ったのである。
あれから20数年。で、結論は変わっていないわけだ。進歩がないのかな(苦笑)

面白くない小説だが、損したとは思わない。
面白くないと、十分に確認できたのである。たぶん、また20数年しまっておくだろう。
死ぬ前に、あと1回くらいは読むかもしれないと思う。
面白くない小説をつらつら読む。悪くない人生の過ごし方じゃないだろうか。