Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

再エネ38兆円の誇大広告

このような記事がある。
「再エネ6900万KWの負担は38兆円」
というものである。


資源エネルギー庁に認可された再エネ設備は6900万KWにおよび、その国民負担は38兆円におよぶ、だから太陽光発電のFIT(固定価格買取)認定は一次的に停止せよ、というものである。

私の知っているところ、こんな事態は起こらないので、特にFIT認定を停止する必要はないと思う。この記事は、いささか誇大広告である。
その主な理由を2点、以下に述べる。

1)そもそも6900万KWの認定設備の実際の運開率が100%いくわけない。
実は、いまだに運開率20%以下である。現在の太陽光のFIT価格は32円であるが、当初は42円であった。そして、42円当時の認定案件で、今年運開できるものは、ほとんどないであろう。
3年も経つのに運開できないのは、そもそも計画に無理があり、資金手当てができない、あるいはハナから見込みのないものを申請している(二重申請物件も多数あり)からである。
これらが運開できないのは、その後も同じである。よって、6900万KWが半分の3400万KWにも到達しないのは確実であろう。
実際に、昨年の国会でFIT初年度2000万KWの認定設備の運開率が12%しかないのを質問されて問題になったではないか。どうして、いきなり「認定設備すべてが運開」という前提で数字が出るのであるか。まったく理解できない前提である。

2)ドイツと日本のコスト差を無視した議論になっている
現在の太陽光FIT価格32円を「先進国(ドイツ)と比べて2倍以上」として、これでも事業者に充分な儲けがあるから参入が止まらない、としていることである。
しかし、実際には、すでに32円で事業者に儲けはない。買取価格は2倍だが、そもそも発電所建設コストが2倍以上かかるからだ。
この理由の一つが、系統連系費用である。太陽光発電所が電力会社に売電するためには、実は電柱までの送電線コストを事業者が負担しなければならない。この電線のつなぎこみ(正しくは、変電所までの収容となる)を系統連系という。日本の系統連系費用は、独逸の倍以上、キロ1000万円である。(値引き交渉すると3割くらいおちる。ちなみに、内部接続費用はさらのその半額くらいなのだが。これは企業秘密ということになっている)建設費も、独逸の2倍以上する。だから、すでに儲かる商売ではない。32円の設定で、認定の申請ペースはガックリ落ち込んでいるはずだと思うが、違うだろうか。

なお、記事中で正しい指摘は、認定制度の欠陥に関するもので、認定が申請時点で運開時点は無視されていること、しかも認定は書類さえ整っていれば受付される点で、これは確かに制度の欠陥である。
しかしながら、このような制度であるから、なおさら記事の標題にあるように「6900万KW38兆円の国民負担」など、起こりようがないのである。

この記事は、どうも誇大広告めいていて、まるでFIT制度に対する脅しだ。
太陽光発電はコスト的に不利だという事業者の言い分を鵜呑みにして(当時の民主党政権が再エネ分野進出を狙うソフトバンクと昵懇だったため、という噂もある)太陽光に特別に有利な価格を設定したのが、実際に歪みとして現れただけで、太陽光を除くその他の再エネについては、こんな問題は起きていない。
どうしてこんな歪みが生まれたのかというと、運開までの総コストで考えた場合、太陽光発電は地主の許可と系統連携だけを得ればいいのに対して

・地熱であれば温泉事業者、あるいは公園内の許可取得の問題
・風力であれば低周波公害対策および鳥類等の自然保護対策
・小水力であれば河川法に基づく発電水利権取得そのものの困難
バイオマスであればFIT期間20年間の材料確保の難しさ

があり、これらの問題を解決するのに時間=コストがかかるからである。
太陽光は、機材=パネルが高いのであるが、実はそれだけしか問題はなく、設置工事は簡単で、あとは系統連系するだけだ。
直接発電コストだけをみて、運開にかかるまでの間接経費の違いをまったく無視したことが、認定申請のうち94%以上が太陽光発電という歪みを生み出した。
こんな異常なバブル(しかも、実際には運開しない)を大真面目に試算して取り上げる必要なんかない、と思う。

で、よくよく見ると、この記事のもとは「朝野賢司 (電力中央研究所社会経済研究所主任研究員)」とある。
なあんだ、原子力ムラかあ。。。

ま、そういうことなんですよ。

2014/07/03追記。
日経ビジネス
「静かに終わる太陽光バブル」幕を下ろしたメガソーラー投資
http://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20140612/266764/