Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

官僚の責任

「官僚の責任」古賀茂明。

経産省の「改革派官僚」古賀茂明氏が、その官僚生活の最後に書いた本である。
渡辺喜美氏(当時の行革担当相)に抜擢され、行政改革の骨組みをつくる。
しかし、政権交代に伴い、海江田万里経産相に面談すらかなわず、辞職勧奨されて退職した。

よく政官財のトライアングル、と言われるが、その中でもっとも強力なのは官僚である。
理由は簡単である。
監督官庁たる官僚は、民間を簡単に締め上げることができる。だから、民間は、ひどい目に遭わないように、天下りでもなんでも受け入れてご機嫌をとる。
政治家は官僚よりも強いはずだが、しょせん専門知識がない。法律の条文の後ろに「等」がつくだけで、まるきり意味が変わるなどという清朝時代の八股文顔負けのレトリックを、人気投票で当選した政治家が理解できるはずもない。
よって、すべての法律は骨抜きになる。
さらに、都合のわるい大臣は、しばらく我慢していれば、2~3年で内閣改造でいなくなる。ひどいのは落選する。
つまり、選挙もない、他省への異動もない、権益をにぎっている官僚は利権に対してはチート設定なのだ。

古賀氏は、本書で、官僚による天下りと業界の癒着が起きるメカニズムを丁寧に解説している。
その上で、いくつかの改革案を提示する。

まず、官僚は異動がないというのが、最大の問題である。
たとえば、経産省財務省で採用された官僚は、以後、ずっと経産省財務省で働くわけである。
これは、たとえば一般会社で考えると、営業部の社員は一生営業部、経理部の社員は一生経理部ということである。
会社の運営全体を考えて、たとえば営業出身者を開発部にまわしたり、経理部出身者を資材部に回したりすることはない。
なので、一生懸命仕事をしようとする官僚は、自然に「国のため」ではなくて「省のため」に働くようになってしまう。
他の世界を知らないのだから、いかんともしがたい。

官僚の昇進をつかさどる人事も奇怪なものである。
憲法上、中立であるはずの人事院の人事は、もちろん官僚が決めるのである。
そして、官僚が官僚を査定する。
官僚は、民間企業のような売り上げがないので(正確にいえば、成果を測定する前に、省内で異動がある)その他の実績で評価する。
それは、いくつの法律を通し、制度をつくり、つまりはポストをつくったか?である。
天下りポストをつくることが官僚の実績なのである。

最優秀の頭脳をもっている官僚が、日夜考えているのは、実はこういうことなのである。
すべての官僚がそうでなく、立派な志をもっている官僚(入省当時は、だいたいそうである)達は、だんだんと日々の業務に邁進することでスポイルされていくのである。
誰だって、評価される道と、出世レースからはずれるいばらの道(しかも天下り先すらなくなる)を比べたら、そりゃ結果はわかるではないか。

その結果、ついに業界団体とずぶずぶの関係になる。
福島原発事故で驚いたのは、原子力保安院経産省の所管であることだった。
原発を推進する側が、みずから規制する尺度も組織もつくる。なんだそりゃ、なんである。
泥棒に泥棒を見張れ、というに(たとえは悪いが)等しい。

原発をめぐる議論も、いい加減きわまりないものだ。
そもそも、電力会社は独占産業であるが、そのコストについては「いくらです」と言うだけで、一切、外部に公表していないのである。
企業秘密だからだそうである。
古賀氏は言う。独占企業に企業秘密が必要であろうか。(どのライバル企業から秘密を守るのか?)
コストをいうのなら、その領収書の一枚まで公表し、コスト構造をガラス張りにするべきではないか。
しかし、監督官庁たる経産省は、大量の天下りを電力業界に送り込んでおり、最大規模なのである。
よって、これらの内部の情報が公開されることは、金輪際ないであろう。。。

評価は☆☆。
著者の古賀氏については、毀誉褒貶がある。しかしながら、誰かが言いにくいこと言わねばならない。
その意味で、大きく評価したいと思う。
民主党の「政治主導」がいかに馬鹿げたものか、彼らがいかに勉強不足だったかも厳しく指摘している。


第一次安倍内閣は、行政改革に取り組んだが、官僚からのリークが相次ぎ、マスコミから袋叩きに遭って瓦解した。
しかし、安倍首相は、いまだ志を忘れさったわけではない。
なんと「内閣人事局」を創設し、キャリア官僚の人事評価をはじめた。人事院から、ついに官僚人事を奪ったのである。
これは、第一次安倍内閣以来の、安倍首相と官僚たちの闘争の果てなのである。
安倍首相は、高い支持率を背景に、官僚を追い詰めており、着々と改革を進めつつある。
有権者が強く支持すれば、政治家は強いのである。
私は、この安倍内閣の姿勢を高く評価している。

それにしても。
この古賀氏を首にし、面談すらしなかった海江田万里氏が民主党の党首か(笑)。ま。ダメでしょ、やっぱりね。