Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

「復讐の子」

「復讐の子」パトリック・レドモンド。

 

物語の冒頭、舞台は第二次大戦の終わった直後。アンナは16歳で、出征中の兵士と恋に落ちる。彼女の初恋だった。兵士は、必ず帰ってくると言って去った。アンナは身ごもっていた。子供は養子に出すだったが、生まれた子どもを抱いたアンナは、どんな苦労をしてもこの子を育てる、他人に手渡さないと決めた。子供の名はロニー。どんなときでも、アンナの心を明るく照らす、ロニー・サンシャインである。

ちなみに、こういうときのほかの兵士と同様に、父親が二度と帰ってくることはなかった。

アンナは、いつの日かロニーと自活できる日を夢見ていたが、身を寄せた叔母の家では苛め抜かれ、ロニーは私生児としてあざけられて育つ。しかし、どんなときでもロニーは母には優しいサンシャインだった。いつしか、ロニーは表情に仮面をつけて、明るく振舞いながら、自分たちに向けられた悪意に復讐をする複雑な人格に育つ。

母のアンナは苦しい生活を続けていたが、彼女の飾り気のない心を評価する親切な人の紹介で、お金持ちの老女の家のお手伝い兼話し相手として働くことになる。老女には、戦争で顔に傷を負ってしまった、しかし頭脳優秀な息子チャールズがいた。チャールズはアンナに惹かれるようになり、老女の死をきっかけに二人は結婚する。アンナは大富豪の妻となり、ロニーも心置きなく優秀な学校に通えることになった。

一方、もう一人の女性の主人公スーザンは、下町の平凡な写真館の娘として生まれた。スーザンは幼い頃から抜群の器量よしで、父親は将来は女優になるといい、といったほどであった。スーザンの愛称スージーは、いつでも光り輝く雰囲気を身にまとっているから、父はスージースパークルと呼んだ。その父親が、ある日突然、病気であっさり亡くなってしまう。

生活に窮したスージーの母は、弁護士の裕福な男と再婚をする。男は親切で人当たりのよい人物に見えた。しかし、実は男の狙いはスージーにあった。男は、スージーに対して性虐待を始める。このことを言えば、お母さんもみな悲しみ、大変なことになると脅してスージーを黙らせる。スージーにとって、地獄のような日々がつづいた。

そんなスージーが、ある日、ロニーの学校に転校してくる。ロニーは、スージーの裏にある暗い雰囲気にすぐに気が付く。「この子は、僕と同じなんだ」

二人は、たちまち恋人同士になる。スージーに秘密を打ち明けられたロニーは、スージーの養父に復讐をする。彼が立てた計画は完璧で、養父は事故に見せかけられて死ぬ。そして、今度はスージーがロニーの秘密を打ち明けられるのだが、その秘密は、あまりにも重いものだった。。。

 

600ページを超える長編小説。先日の耳鳴りで、自宅療養していたときに、少し回復してからずっと読書タイムとして、その間に読んだ。物語は滔々と流れて、留まることがない。最後の悲劇と、そして、新しい旅立ちまで、見事な出来栄え。

評価は☆☆☆。

これが、小説だと言いたい。

 

この物語は復讐譚ということになるだろうが、この分野は、古来から「絶対に面白い物語」の定番なのである。モンテクリスト伯からわが国の四十七士まで、復讐というのは一種のカタルシスがあるからだろう。SFにも「虎よ虎よ」A・ベスターという大傑作がある。

ただ、本書の復讐は、これらとは少し違う。復讐をせざるを得なくなる経緯は、実に丁寧に描かれるのだけど、その復讐に至る悲しさに、胸をつかれる。

そこまで人を憎まないといけない、憎まないと生きていけなかったという事情に思いを致さないわけにいかない。そして、その復讐を隠すときに、サイコパスが生まれてしまうところまで、綿密に描き切っている。

 

自分も、若いころには復讐を考えたくなるほどに、ひどい目にあわされたことがあった。騙されて、裏切りにあった。今でも、当時を思い出せば、胸がうずく。しかし、もう復讐をしようとは思わなくなった。どうあれ、時間の無駄であると悟ったのである。それよりは、自分の時間を大事に前に進んだほうが良いからだ。

復讐をしたい人は、そうしないと進めない事情があるのである。本当につらいのは、むしろその事情のほうなんでしょうなあ。