Single40'S diary

「40過ぎて独身で」と言ってる間にはや還暦のブログ

最愛

「最愛」真保裕一

真保作品は、みんな面白い。(本当)
しかし、この作品には、手が伸びなかった。
だって、タイトルが平凡なんだもん。
「最愛」なんて、このワタシに、一番、縁が遠い単語ではないか。真保氏の読者層は、こういうタイトルが受ける人が多いのかな?

しかし、すでに古本屋に転がっているようになって、まあいいか、と購入。
大して期待もしないで読んだ。
そして結論。「真保作品は、みんな面白い」法則は、きちんと成立していたというわけである。

主人公は小児科医。
突然、警察から電話がかかってきて、長い間音信不通になっていた姉が負傷して生死の境をさまよっているという。
主人公の父母はすでに亡く、姉は唯一の兄弟であり、病院の休暇をもらって慌てて姉のもとに駆け付ける。
姉は、たちのよくない金融会社に単身乗り込んだところで、何者かの放った銃弾を頭部に受けて、すでに脳死を待つばかりの状態に陥っていた。
主人公は、姉がそのような行動をするに至った経緯を知りたいと考えて、姉の近況を知る人々から聞き込み調査を始める。
そこでわかったことは、姉は撃たれる前日に結婚したばかりだったこと、その婚姻届も本人がなかば強引に出したらしいこと、そして相手は過去に自分の妻を殺害した前科を持つ男だったことである。
男が前科を持つに至った経緯は、手ひどい妻の裏切りによってであった。
男は、前科ゆえに職業もままならず、たちの悪い借金を抱えていた。
姉は、建設会社のOLとして昼間働く一方で、夜の商売もしていたことを知る。
主人公は「姉ならそうするだろう」と深い共感を示す。
そして、姉が結婚した相手が姿を隠しているので、その携帯電話にメッセージを吹き込み続ける。
自分が知りえた情報を伝え、今回の件では無実なのであるから出頭するように伝えるのである。
しかし、この男が身を隠し続ける理由は、実は地元で親しまれている名物刑事にあった。
評判の良いこの刑事は、職業柄、どうしても事件があるたびに前科者を疑わざるを得ないのだが、それ以上に過酷に男の取り調べをしているように見えた。
この刑事は、実は主人公の姉に恋愛感情を抱いており、前科者の男に嫉妬していたのである。
そして、自分ではなく前科者の男を選んだことで、姉の過去も調べていた。
実は、姉にも前科があったのである。
主人公は、一見理不尽とも思える姉の行動を常に全面的に肯定し「姉ならそうするだろう」と言い続ける。
ラストになって、姉の夫となった男が現れ、ついに主人公の秘密が明かされることになる。


評価は☆☆。
たいへん、面白い。

この作品は、非常に高度な叙述トリックになっている。
本作は、主人公の立場で終始、一人称で語られる。
そして、後半になればなるほど、主人公に感情移入しにくくなるように書いてあるわけだ。
最初は、ぐっと主人公の立場に一体化させつつ、しかし、後半は徐々に「もう、ついていけんわい」と感じるように、文章が非常に巧みにつづられている。
そして、ラストで、どうして主人公が一種の狂的な精神を持つに至ったのかが示される、というわけである。

私は、このトリックに、すっかりやられた!
「なんだ、真保作品らしくない、うわっすべりな文章だなあ」と思いながら読んでいくと、最後に「ああ!!」となる。
お見事である。

ところで、amazonで本作の書評を見たら。
この作品の「仕掛け」が最後まで理解できなかった人がかなりいたと見えて「後半、ぜんぜんつまらなかった」と書いている評がたくさんあった。
もちろん、この仕組みに気が付いた人の評価は高いわけである。

わざと下手くそに、作品を書くということ自体がトリックだと、わからなかったのだろうか?
目くら千人目明き千人といいますからねえ。
読者の目線を読み切れなかったことだけが、真保氏の誤算だろうか?
こんなに面白いのに、、、うーむ。